研究領域 | 翻訳後修飾によるシグナル伝達制御の分子基盤と疾患発症におけるその破綻 |
研究課題/領域番号 |
25117720
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
石谷 太 九州大学, 生体防御医学研究所, 准教授 (40448428)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | Wntシグナル / 翻訳後修飾 / リン酸化 / ユビキチン化 |
研究概要 |
Wntシグナルは、増殖、分化、生存など様々な細胞の活動を制御する能力を有する多機能なシグナル伝達経路である。私たちは本研究において、生体内の多様な状況におけるWntシグナルの制御機構を明らかにし、これにより、Wntシグナルの多機能性を支える分子基盤を解明したいと考えている。 本年度は、「タンパク質リン酸化酵素Hipk2とタンパク質脱リン酸化酵素PP1cによるDvlタンパク質の脱リン酸化がWntシグナルの伝達を支えること」を発見した。まず、ヒト細胞株HeLaおよびゼブラフィッシュにおいてHipk2を機能阻害すると、Wntシグナルの主要構成因子であるDvlタンパク質が不安定化し、Wntシグナルが伝達されなくなることを見いだした。生化学的解析を交えてHipk2とDvlの関係を解析したところ、「タンパク質リン酸化酵素Hipk2がDvlに結合し、さらにHipkがその酵素活性非依存的にタンパク質脱リン酸化酵素PP1cをDvlへとリクルートし、PP1cによるDvlの脱リン酸化を促すこと」と、「この脱リン酸化が、ユビキチンリガーゼItchによるDvlのユビキチン化を阻害し、Dvlを安定化へと導くこと」を見いだした。このように、新規のWntシグナル制御機構を発見した。私はさらに、このDvlの安定制御がどのような生理条件で起こるのかを検討した。そして、細胞を高密度で培養した際にWntリガンドを添加すると、Hipk2およびPP1cがDvlから解離し、その結果としてDvlがItchにユビキチン化されで分解され、Wntシグナルの伝達がうまく行かなくなることを発見した。この現象は、細胞を低密度で培養した際には起きないことから、細胞密度依存的な現象であると考えられる。今後、この現象と器官構築、がん発生などとの関連を調べていきたい。 また、米大学との共同研究により、Wntシグナルを抑制して肝がん細胞の増殖を抑制する化合物を同定した(AJP, in press)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実績の概要に示したように、全く新しいWntシグナルの翻訳後修飾制御を発見し、その分子レベルから個体レベルまでの機能を徹底的に解明した。さらに、この制御が細胞密度依存的に働くことも発見した。これらの発見、および私たちが本研究で行ったアプローチは、当該分野の研究に新しい風を吹き込むものであると確信している。 また、上記のものとは別の新たなWntシグナルの翻訳後修飾制御(修飾酵素)を複数発見しており、現在解析を進めている。 さらに、ヒトがん細胞株およびがん患者サンプルを用いた解析により、Wntシグナル制御の破綻とがん発生の新たな関連を見いだしつつある。 加えて、肝がん治療に貢献しうる化合物も同定した(AJP, in press)。 以上のことから、本研究はおおむね順調に進行していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
実績の概要に示した「新しいWntシグナルの翻訳後修飾制御」の成果については、現在論文がrevise中であり、全力を尽くしてacceptにこぎつきたい。 また、最近発見した別の新たなWntシグナルの翻訳後修飾制御については、本助成金で雇用する博士研究員や当研究室所属学生と連携して解析を進め、本年度中に成果としてまとめられるよう努力する。 さらに、本研究で見いだしたWntシグナル制御に関わる新規制御因子(酵素)とがんとの関連を、当研究室所属の学振研究員や九大病院と連携してヒトがん細胞株およびがん患者サンプルを用いた遺伝子解析、生化学解析を行うことにより明らかにしていく。 加えて、本新学術領域の班内および班外(海外も含め)の研究者と積極的に共同研究を進め、上記研究の推進と発展を図る。
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