公募研究
新学術領域研究(研究領域提案型)
ヒストンH3の36番目のリジンH(H3K36)のメチル化は、遺伝子中のcripticな転写を抑制する事が出芽酵母で示されているが、それ以外の機能については不明である。我々は分裂酵母H3K36メチル化酵素をコードする遺伝子set2の機能解析をおこなっている。Set2はRNAポリメラーゼII(RNAPII)のCTD領域と特異的に相互作用し、転写と共役してH3K36メチル化を行う。このRNAPIIとの相互作用に必要な領域の欠失変異体(set2ΔSRI)を作成したところ、細胞に存在する、ジメチル化されたH3K36 (H3K36me2)は維持されるがトリメチル化されたもの(H3K36me3)は消失することがわかった。この時、H3K36me2 とH3K36me3のゲノムワイドな分布をChIP-sequencingにより解析すると、両者共に転写ユニットと重なる形で存在し、set2ΔSRIではH3K36me3が失われるが、me2は影響を受けない。これはジメチル化も転写と共役しておこることを示しており、Set2が未知のモードでRNAPIIと相互作用することを示している。一方、野生型株、set2破壊株、ΔSRI株のゲノムワイドな転写をマイクロアレイを用いて解析をおこなったところ、set2破壊株、set2ΔSRI株で見られる発現のパターンがほぼ同一であった。前述のChIP-sequencingの結果を考慮するとH3K36me3が遺伝子発現制御に重要でH3K36me2は機能を持たないということを示している。また、H3K36me3の欠損により、大きく遺伝子発現が上昇する遺伝子の多くがanti-sense RNAと減数分裂期に発現する遺伝子であることがわかった。これはH3K36me3が特にanti-senseの不用な転写の抑制と、減数分裂特異的遺伝子発現抑制という生理的機能をもつことを示唆している。
2: おおむね順調に進展している
Set2-H3K36メチル化によるクロマチン制御、遺伝子発現制御の解明をめざして解析を進めているが、今年度はゲノムワイドの解析により、以下の重要な発見を行うことができた。1) H36K36トリメチル化が遺伝子発現調節に重要でジメチル化は重要でない2) Set2はRNAポリメラーゼのCTDとの相互作用以外に転写と共役する機構をもつ3) H3K36トリメチル化は減数分裂関連遺伝子発現、anti-sense RNA発現の抑制に重要である。これらの新知見は当初の目的とするヒストン修飾と、転写、クロマチン制御のクロストークのメカニズムの一端とその生理的意義を解明する上で重要な知見で有り、これらの知見をもとに残された期間解析を推進することで当初の目的を達成する可能性が高まったと考える。
以下の三点を明らかにする。1) Set2がRNAポリメラーゼIIと共役してヒストン修飾をおこなう分子機構の解明。特にジメチル化を行う時にどのようにRNAポリメラーゼIIと相互作用するのか、仲介因子の存在も考慮にいれて、Set2との相互作用因子の解析など生化学的解析を推進する。2) H3K36トリメチル化による遺伝子発現抑制機構の解明。トリメチル化を特異的に認識結合して機能する因子の存在が想定できる。そこで、すでにK36トリメチルを認識するドメイン(PWWPドメイン)を有する分裂酵母の3つのタンパク質について、遺伝子破壊株を作製し、set2破壊株との比較などの解析をおこなう。一方で、H3K36トリメチルを含むペプチドを用いて生化学的に結合因子の同定を試みる。3) H3K36トリメチル化の減数分裂期遺伝子の発現調節の解析。H3K36トリメチル化により抑制を受けている減数分裂期特異的遺伝子について、減数分裂期でのH3K36トリメチル化の変化などを解析する事で、その生理的機能を明らかにする。
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http://barato.sci.hokudai.ac.jp/~bo/