rRNA遺伝子の転写反応は厳格な種特異性を示す。ヒトrRNA遺伝子はマウス細胞内で転写されず、またマウスrRNA遺伝子はヒト細胞内で転写されない。この種特異的転写は、マルチサブユニット因子SL1(ヒト)およびTIF-IB(マウス)に起因する。SL1/TIF-IBはrRNA遺伝子のコアプロモーターを認識し、転写開始点を規定する。rRNA遺伝子の転写開始反応を支配する複合体であるにもかかわらず、これまで構成因子によるSL1/TIF-IB活性の再構成はなされてこなかった。我々は、マウス細胞内においてヒトrRNA遺伝子転写を再構成し、マウス細胞内におけるSL1活性にはヒト由来の4種類のTAFI(TBP-associate factor I)が必要かつ十分であることを示してきた。一方で、マウス由来の4種類のTAFIを発現させても、ヒト細胞内においてマウスrRNA遺伝子転写を再構成することができなかった。試験管内転写反応系においても、HeLa細胞核抽出液はマウスF9細胞核抽出液を用いたマウスrRNA遺伝子転写を阻害した。また、マウスF9細胞核抽出液はHeLa細胞核抽出液を用いたヒトrRNA遺伝子の転写反応を阻害することが明らかとなった。そこで、SL1とTIF-IBはそれぞれマウスとヒトのrRNA遺伝子転写に干渉する可能性を検討した。マウス細胞内においてSL1構成因子の過剰発現は、マウスrRNA遺伝子の転写反応を強く抑制した。また、siRNAを用いてSL1構成因子の発現抑制を試みたところ、HeLa細胞内においてTIF-IB構成因子の過剰発現によりマウスrRNA遺伝子の転写に成功した。以上の結果から、HeLa細胞内におけるマウスrRNA遺伝子転写では、SL1がTIF-IB活性に干渉することが明らかとなった。
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