ヒストンの翻訳後修飾は、遺伝子発現制御と関係することが最近明らかになってきた。特に、転写されている遺伝子上には、ヒストンH3のアセチル化や4番目のリジンのメチル化が検出される。しかし、これらのヒストン修飾がどのように転写の活性化に働くのかについての詳細は分かっていない。そこで、本研究は、ヒストンとRNAポリメラーゼIIの翻訳後修飾動態を生細胞で可視化することで、ヒストン修飾の転写活性化における意義を明らかにすることを目的として行った。RNAポリメラーゼIIは、転写開始前複合体形成の際には脱リン酸化型であるが、転写開始の際にはC末端繰返し配列ドメインの5番目のセリンがリン酸化され、転写伸長の際には2番目のセリンがリン酸化される。これらの異なるリン酸化状態を認識する抗体由来の抗原結合断片(Fab)をグルココルチコイドで転写が誘導されるMMTV遺伝子アレイを持つ細胞に導入し、転写誘導に伴うRNAポリメラーゼIIの動態を計測した結果、転写開始から伸長に至る過程は比較的効率が高いことが明らかになった。その要因として、MMTV遺伝子アレイは転写の誘導前からヒストンH3がアセチル化されていることが考えられたため、ヒストンH3K27アセチル化特異的Fabを用いて、個々の細胞でのアセチル化レベルと転写活性化の関係を解析した。その結果、H3K27acのレベルが高い細胞では、転写の開始から伸長への過程がより効率良くおこることが明らかになった。この結果は、アセチル化酵素阻害剤やヒストン脱アセチル化酵素の操作など人為的にアセチル化レベルを変動させる系によっても確認され、ヒストンH3K27acは、クロマチンをオープンにするのみならず、リン酸化酵素複合体を介して転写伸長を促進させると考えられた。
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