超好熱性ユーリアーキアThermococcus kodakarensis (Tko) RNAポリメラーゼのX線結晶構造を決定することに成功した。Tko RNAポリメラーゼは、11個のタンパク質が寄り集まった大きな「カニの爪」のような「かたち」をしていた。11個のタンパク質のうち、2個のタンパク質からなる「ストーク」が中心部分から突出し、予想通り全体の「かたち」は、真核生物のものと酷似していた。しかし、両者を詳細に比較したところ、真核生物型RNAポリメラーゼのみに存在する「特異的挿入配列」が発見された。その「特異的挿入配列」を使って、真核生物型RNAポリメラーゼは様々な基本転写因子と結合することにより、多岐にわたる高次生命現象の発現を制御していることが分かった。おそらく、真核生物型RNAポリメラーゼは、原始生命体に最も近い超好熱菌のTko RNAポリメラーゼを基に「特異的挿入配列」を獲得することで分子的に進化したことが考えられる。一方、Tko RNAポリメラーゼの「カニの爪」の部分である「クランプ」部分は「ストーク」が存在しているにもかかわらず、真核生物型とは異なり開いた状態の構造であることが判明した。今まで、「ストーク」の有無で「クランプ」の開閉が制御されていることが通説だった。しかし、「ストーク」の構造変化に伴い「クランプ」が開閉する新しい分子機構が提案された。以上の研究成果をNature Communications 誌に共同責任著者として報告した。本研究結果から、超好熱菌RNAポリメラーゼの新たな転写機構の発見や、高次生命現象を制御する真核生物(ヒトや動物が含まれる)型RNAポリメラーゼとの分子機能進化の変遷過程などを解明するに至った。今後、転写機構の基本原理を解明する学術的研究の発展だけでなく、アーキアに特異的な新規抗菌剤の創製に繋がると期待される。
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