本年度はまず、HMGA2のニューロン分化関連遺伝子座への結合パターンを調べた。その結果、ニューロン分化期であるE12ではよく結合していたのに対し、アストロサイト分化期に移行するタイミングであるE16ではその結合が減少していた。このことは、ニューロン分化関連遺伝子の発現を促進するという仮説と一致している。 また、ニューロン分化期に移行する前である増殖期からニューロン分化期にかけて、HMGA2の発現量を調べたところ、興味深いことに移行のタイミングであるE10で発現量が上昇することがわかった。さらに、HMGA2を過剰発現するとニューロン分化期マーカーであるGLASTの発現が上昇した。このことは、HMGA2の発現上昇が増殖期からニューロン分化期への移行を促進している可能性を示唆している。 前年度までの結果から、HMGA2はPcGの活性を抑制してニューロン分化能を促進することがわかっていたことから、PcGが修飾するH3K27me3修飾量の変化を調べた。その結果、増殖期からニューロン分化期にかけてH3K27me3量が減少することがわかった。このことは、HMGA2がPcGの活性を抑制することでニューロン分化関連遺伝子の転写を促進し、それによって神経幹細胞がニューロン分化能を獲得する可能性を示唆している。 増殖期からニューロン分化期への移行メカニズムは、これまでにほとんど明らかにされていない。しかし、本研究によってHMGA2-PcG経路がニューロン分化関連遺伝子の転写を促進することでその移行を制御している可能性が示唆された。
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