研究実績の概要 |
昨年度は、我々が新たに開発した新規KDM1A阻害剤が、低濃度(0.03~1uM)で白血病や骨髄異形成症候群の細胞株の増殖を抑制することを見いだした。本年度はどのようなメカニズムで白血病や骨髄異形成症候群に作用するのかを探索した。細胞分化アッセイ、細胞周期アッセイ、アポトーシスアッセイなどを経時的に解析し、分化誘導が最初に始まることを突き止めた。次にマイクロアレイ解析にて、どのような遺伝子群が阻害剤によって発現上昇するかを解析し、複数の細胞株で共通する遺伝子群をKDM1A標的遺伝子として同定した。その中に複数の造血分化に関連する転写調節因子が含まれていた。さらに、ヒストンH3K4me2, H3K4me3, H3K27acに対するChIP-seq解析を行い、先に同定した転写調節因子のエンハンサー領域でのH3K27acが阻害剤によって誘導されることを見出した。エンハンサー領域のH3K27ac, プロモーター領域のH3K4me3, mRNAレベル, および分化マーカーを経時的に解析すると、エンハンサーのH3K27acの増強が阻害剤添加3時間後から始まり、プロモーターのH3K4me3がややおくれて増強し、mRNAはさらにおくれて18時間目から上昇し始めること、分化マーカーは24時間目から発現上昇し始めることを見出した。すなわち、KDM1Aの阻害はエンハンサーの再活性化を引き起こして、分化に関わる転写因子の発現を誘導し、分化誘導することが明らかとなった。最後に、複雑核型をもつ予後超不良型の骨髄異形成症候群患者検体に対する効果をin-vitroおよびin-vivoで検定し、単剤使用で個体から駆逐することができることを示せた。これらの結果は、エンハンサーを標的にしたエピジェネティック治療が白血病や骨髄異型性症候群の治療に有望であることを示している。
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