NAD依存性脱アセチル化酵素であるSirtuinは、細胞内における様々な代謝反応、細胞の運命制御などの生命現象に関わっている。がんにおけるSirtuinの役割については、未だ、不明な点が多いが、固形がんにおいてSirtuinの過剰発現が報告されており、がん細胞の未分化状態の維持に関与していることを示唆する報告もある。我々は、これまでに、Sirtuinファミリータンパク質であるSIRT2の活性阻害により、急性前骨髄球性白血病(acute promyelocytic leukemia: APL)細胞を、好中球様細胞へ分化誘導させることを示している。昨年度までに、APL細胞の好中球分化誘導時SIRT2の活性抑制が惹起され、SIRT2の脱アセチル化基質であるeIF5Aのアセチル化が亢進するという仮説の元、検証を行ったが、eIF5Aのアセチル化に差は見られなかった。しかし、脱アセチル化酵素と拮抗するアセチル基転移酵素のひとつであるPCAFの著明な発現亢進を見出した。 そこで、本年度は、APL細胞の好中球様細胞への分化誘導におけるPCAFの役割についてさらに研究を進めた。その結果、分化誘導薬ATRAによるAPL細胞の分化誘導には、PCAFが必須であること、分化誘導薬による治療を受けた患者骨髄中においても、PCAFの強い発現誘導が見出されることを発見した。これらのことから、APL細胞では、低レベルのPCAFに対してSirtuinの活性が高く、分化誘導が抑制されているものの、PCAF発現が惹起されると、Sirtuinの活性を上回り、好中球様細胞へ分化が誘導されるというモデルが示唆された。
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