研究領域 | 構成論的発達科学-胎児からの発達原理の解明に基づく発達障害のシステム的理解- |
研究課題/領域番号 |
25119503
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
乾 敏郎 京都大学, 情報学研究科, 教授 (30107015)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 認知発達 / like-meシステム / different-from-meシステム / 分離表象 / 座標変換 / 発達障害 |
研究概要 |
本年度はまず,自己中心的表現から分離表象を創発する上で極めて重要な役割を果たす座標変換の脳内メカニズムについて検討を行った.物体イメージの変換に関して,他者の視点を取得する場合と物体を心的回転させる場合での脳活動をfMRIで計測し,他者の視点取得においては左内側前頭前野(mPFC),心的回転においては左側頭頭頂接合部(TPJ)で有意な活動がみられることを明らかにした.これは左TPJにおける自己中心的表現をmPFCが抑制することで他者の視点取得が実現されていることを強く示唆するものである.また,物体の心的回転を実現する脳内メカニズムについての神経回路モデルを構築した.このモデルでは,物体の回転に伴う景観の変化を次々と予測することができるようにモデル内部のパラメータを学習する.学習の結果,特定の物体に依らない回転変換そのものが学習されることが示された.これは予測誤差に基づいた対象の順モデルの学習方略が脳内で実装されていることを示唆している.そしてこのモデルの入出力間にフィードバックループを設けることで自律的な心的回転の機能が実現されることを明らかにした. さらに,発達障害の神経基盤についても理論的検討を行い,辺縁系異常から自閉症の多くの機能不全が説明できることを明らかにした.特に,脳幹形成期の異常から,発達初期の辺縁系ネットワークにおける抑制性ニューロンの正常な発達が阻害され,結合先の高次中枢のニューロンの可塑性に異常が生じて健常な細胞構築が阻害されることで様々な領野の構造・機能異常が生じることを示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は自己中心的表現から分離表象への創発過程に関わる脳内メカニズムについて6つの仮説を提案し,これらを実験と理論の両面から検証することを目的としている.現在に至るまでに,コミュニケーションにおけるlike-meシステムとdifferent-from-meシステムの役割と両者の切り替え機構,両システムの形成に関わる順逆モデルの学習,自己中心座標と環境・他者中心座標の間の座標変換,および発達障害の脳内機序に関する仮説についてそれぞれの脳内メカニズムを検証してきた.さらに,残りのlike-meシステムとdifferent-from-meシステムの切り替えに寄与する前頭葉の抑制機構,および前頭葉で実現される推論機能に関する仮説に関しても,すでに計算理論の構築と検討すべき行動実験を終えており,fMRIによる脳イメージング実験も進行中である.
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今後の研究の推進方策 |
今後は他者の意図推定に関わる脳内メカニズムについて,精緻な神経回路モデルの構築と行動実験のデータに基づいて,fMRIによる脳活動計測データを解析し検討する.さらに,模倣・被模倣経験による社会性・共感性の向上の基盤となる脳内メカニズムの解明と,コミュニケーションにおける模倣・被模倣の役割を脳神経レベルで理解できるような神経回路モデルの構築を行う.そして,自閉症を含むコミュニケーション障害の発現メカニズムを含めた初期認知発達の神経回路モデルの構築を目指す.
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