他者の行動特性に関する知識の有無によって他者意図推定に違いが生じるかを行動実験で検討した。実験では迷路内をエージェントが動く動画を用い、エージェントの行動特性未知条件および既知条件で、エージェントがとる経路を観察して、その目指すゴールについて評価させた。その結果,行動特性未知の条件では,ゴールの推定において自己視点の情報が用いられていることが示唆された。一方、行動特性既知の条件では、自己視点の情報を抑制して他者視点を考慮した推定が行われていることが示唆された。この意図推定特性を動的ベイジアンネットワーク(DBN)による確率推論として定式化し、心理実験の結果を解析した。このDBNではエージェントの迷路内での位置、経路選択のための行動、および各位置におけるゴールの観測可能性が表現されており、エージェントの位置遷移系列の情報からゴールの事後確率を計算し、それに基づいて目指すゴールを推定する。その結果、エージェントの行動特性の知識が無い場合、それをランダムウォークで近似し、自己視点からの情報を取り入れて意図推定を行うのに対し、エージェントの行動特性を学習した後では、その行動特性を反映した心的モデルが構成されるとともに、自己視点からの情報を抑制して意図推定を行うという方略がとられていることが示唆された。さらに心の理論の理論説のモデルにシミュレーション説を導入した心の理論のペイジアンネットワークモデルを提案し、様々な心的状態の理解の発達過程と相互関連を検討した。その結果,他者の信念や知識を理解する心的機能の同時発達が誤信念という高次の心的機能の獲得に必要であることが示唆された。さらに、自閉症の発達モデルに関して、昨年度までの成果をふまえて、神経系の可塑的変化に関する神経伝達物質の特性およびその発達変化や小脳に及ぼす効果などを考慮し、脳幹不全モデルの精密化を行った。
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