公募研究
新学術領域研究(研究領域提案型)
光合成の光エネルギー変換や電子伝達の過程では活性酸素が不可避的に発生する。強光ストレス下では活性酸素の発生が著しく促進し、細胞内は酸化ストレス状態になる。このような酸化ストレス条件下ではタンパク質合成が阻害され、光化学系IIの光阻害が促進する。近年、シアノバクテリアを用いた研究から、活性酸素により翻訳因子EF-GやEF-Tuの特定のシステイン残基が酸化されタンパク質合成が阻害されることが明らかになった。しかし、このような阻害機構が植物の葉緑体で起きているかどうかは不明である。そこで本研究では、シロイヌナズナの葉緑体におけるタンパク質合成阻害機構を解明し、光合成の強光ストレス耐性を向上させることを目的とした。まず、葉緑体EF-GおよびEF-Tuに関して、組換タンパク質を調製し、酸化条件下におけるシステイン残基のレドックス変化と翻訳活性を調べた。その結果、EF-Tuは過酸化水素の存在下でシステイン残基が酸化されて失活し、高い酸化感受性を示した一方、EF-Gは過酸化水素に対しても高い酸化耐性を示した。したがって、葉緑体とシアノバクテリアではタンパク質合成系の翻訳阻害の機構が若干異なることが示唆された。次に、葉緑体EF-GおよびEF-Tuに関して、過剰発現体や標的システイン残基を改変した植物体を作製した。これらの形質転換植物において光化学系IIの光阻害を解析した結果、EF-G過剰発現体、EF-Tu過剰発現体、EF-Tu改変体のいずれにおいても光化学系IIの光阻害の緩和が見られた。これらの結果から、シロイヌナズナ葉緑体においても翻訳因子の酸化感受性がタンパク質合成の阻害要因となり、光化学系IIの強光ストレス耐性に影響を及ぼすことが示唆された。
1: 当初の計画以上に進展している
当初の計画通り、シロイヌナズナ葉緑体翻訳因子EF-GおよびEF-Tuに関して、酸化感受性をin vitroのレベルで解析することを終了している。さらに、これらの翻訳因子を植物体で過剰発現させたり、改変したりすることも成功している。また、これらの形質転換植物(T2世代)では、光合成の強光ストレス耐性が若干増大することも観察できている。これらの成果は、当初の計画よりも早く得られており、研究が当初の計画以上に進展していると言える。
現在得られている形質転換植物がT2世代なので、目的の遺伝子がホモ接合で導入されたT3世代の植物体を現在選抜している。これらの形質転換植物体を作製次第、強光ストレス下におけるタンパク質合成活性および光合成活性を解析し、植物体の強光ストレス耐性を評価する。また、タンパク質合成系の改変だけでは効果が低い場合、それに加え、活性酸素消去系酵素や光合成電子伝達に関わる因子を導入したり過剰発現したりすることによって、強光ストレス耐性のさらなる増大を試みる。
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