研究領域 | 大地環境変動に対する植物の生存・成長突破力の分子的統合解析 |
研究課題/領域番号 |
25119705
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
竹澤 大輔 埼玉大学, 理工学研究科, 准教授 (20281834)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | コケ植物 / 変水性 / 分子機構 / アブシジン酸 / 低温 / 高浸透圧 |
研究概要 |
表皮系をもたないコケ植物は、「変水性」と呼ばれる能力によって細胞が高い脱水耐性を発揮し、過酷なストレス環境を克服している。本研究では、蘚類ヒメツリガネゴケや苔類ゼニゴケを用い、コケ植物における細胞の脱水耐性機構と、低温、乾燥、高浸透圧応答におけるアブシシン酸(ABA)の役割について明らかすることを目的とした。 ABA処理により高い脱水ストレス(乾燥・凍結・高浸透圧)耐性を獲得するヒメツリガネゴケ原糸体細胞は、ストレス応答的に可溶性糖やLEA様タンパク質を蓄積する。ヒメツリガネゴケAR7変異株は、ABA応答が低下した変異株として同定され、その後、高浸透圧や低温に対しても応答できないことが明らかとなった。マイクロアレイ解析では、約90%のABA応答性遺伝子の発現がAR7株において変化していた。AR7株のゲノム解析から、原因となる遺伝子の候補PpAR1を同定し、相補実験や遺伝子改変などにより確認した。また、苔類ゼニゴケからPpAR1相同遺伝子MpAR1を単離した。MpAR1をAR7に導入したところ、変異が部分的に相補されたことから、コケ植物で共通の機能をもつ遺伝子であることが示唆された。さらに本年度は、新たなABA非感受性株のスクリーニングを行い、変異株の候補を多数単離した。このうち、いくつかの株については、PpAR1の導入により部分的にABA非感受性が相補された。 また、ABA欠損株についても解析を行った。遺伝子ターゲッティングにより作出したヒメツリガネゴケABA欠損株では、高浸透圧へのストレス耐性が野生株と比べて低下していた。この株を用いて浸透圧および低温応答を解析したところ、高浸透圧に応答して蓄積するLEA様タンパク質のレベルが野生株と比べて著しく低下していることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初目的としていたヒメツリガネゴケAR7株の原因遺伝子についてはゲノム解析などから特定し、一過的発現系やノックイン株の解析により、機能を確認することができた。また、今回、約100の新たなABA非感受性株を単離することができ、コケ植物のABA、低温、高浸透圧への応答機構を遺伝学的アプローチから解析する手段を得た。一部の変異株についてはPpAR1遺伝子がそのABA非応答性を部分的に相補できることが示唆され、新たなPpAR1アリルとして今後、分子機構の解析に用いることができると考えている。これに加え、班員との連携により、苔類ゼニゴケにおいてPpAR1遺伝子MpAR1を同定することができ、遺伝子の機能がコケ植物で保存されていることを明らかにした。 また、ヒメツリガネゴケABA合成欠損株を用いた解析では、コケ植物における内生ABAの役割を初めて明らかにすることができた。このことは、ABAがストレスホルモンとして進化的に保存された乾燥や塩ストレスに対する機能を持っていることを示唆している。一方、ゼニゴケのABA欠損株の作出はこれまでのところ成功していない。最近、ゼニゴケのより詳細なゲノム遺伝子情報が明らかとなっており、今後、他の班員とも連携し、新しい情報に基づいた遺伝子破壊アプローチを展開していく必要があると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
コケのABA、低温、高浸透圧応答に関わる情報伝達因子であることが今回明らかとなったPpAR1遺伝子の機能について、今後さらなる解析を進める。組み換えタンパク質の生化学的な解析による酵素活性の調節機構、既知のシグナル因子との相互作用およびそれらの調節機構、細胞内局在の解析なども進める。PpAR1遺伝子に様々な部位特異的変異を加え、一過的発現系においてABA、低温、高浸透圧などのストレス応答が変化するかどうかを調べるとともに、安定な形質転換体を作出し、ストレス耐性試験、タンパク質発現解析、遺伝子発現解析、糖蓄積の解析を行い、シグナル特異的に作用するドメインを同定する。また、PpAR1タンパク質の活性化機構についても明らかにしたいと考えている。PpAR1タンパク質のシグナル応答的な細胞内局在変化および、翻訳後修飾に関わるドメインを突き止め、部位特異的変異による遺伝子改変でどう変化するかを解析する。 新たに単離した変異株については、PpAR1に変異のあるアリルを配列解析により同定し、PpAR1の制御に関わるアミノ酸の候補を選び出した後に、その変異によりABA応答、低温応答、高浸透圧応答がどのように影響されているかを上記に記した耐性試験や生化学的な解析手法により明らかにしたいと考えている。 加えて、PpAR1遺伝子を種子植物であるシロイヌナズナに導入し、そのストレス耐性を改変できるかどうか検討する。また、それら植物における気孔開閉や種子発芽がどう変化するかも生理学的手法により検討したい。
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