研究領域 | 大地環境変動に対する植物の生存・成長突破力の分子的統合解析 |
研究課題/領域番号 |
25119706
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
野口 航 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (80304004)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 低リンストレス / 呼吸系 / 有機酸分泌 / クラスター根 |
研究概要 |
リンは、植物の成長にとって必須な無機栄養である。植物の低リンストレスに対する応答戦略として、有機酸などを分泌して根の近傍にある不溶態リンを溶かして利用するタイプと、根の量を増やして利用可能な形のリンを探すタイプの2つに分けることができる。本研究では、低リンストレスに対する植物の応答機構について、呼吸系バイパス経路、根からの有機酸分泌、個体の成長の関連性を明らかにすることを目的とした。 (1) シロイヌナズナを用いて、低リン下におけるバイパス経路AOXの応答と生理的役割を解析した。リン充足条件で栽培した野生株(WT)とAOX1a欠損変異株(aox1a)をリン欠乏条件に移行し、生重量、有機酸含量・分泌量、リン酸含量、呼吸鎖遺伝子発現量の変化を比較した。リン欠乏条件下のリン酸含量にはWTとaox1aでは差がなかったが、有機酸分泌量はWTの方が多かった。一方、生重量はaox1aの方が高かった。 (2) クラスター根をもつシロバナルピナスとクラスター根をもたない近縁種のホソバルピナスを用いて、低リン応答を解析した。低リン下では、シロバナルピナスはクラスター根をつくり、ホソバルピナスは根への分配を増加した。成長解析の結果、ホソバルピナスはシロバナルピナスよりも純同化率が高かった。純同化率に影響する要因として根の呼吸に注目した。ホソバルピナスは呼吸速度が低く、シアン耐性呼吸速度も低かった。ホソバルピナスは、根の呼吸消費を抑え、かつ効率の高い呼吸を行っていた。有機窒素量や炭素量などから、根の構成コストを求めた。シロバナルピナスのクラスター根が最も構成コストが高く、ホソバルピナスの根の構成コストは低かった。低リン下では、ホソバルピナスはコストの低い根を多くつくることでリンを獲得する戦略をとり、シロバナルピナスでは、リン獲得能力の高いクラスター根をつくることでリンを獲得する戦略をとっていた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2つの課題を設定して研究を進めている。(1)のモデル植物のシロイヌナズナを使う研究は、栽培条件の設定などに時間がかかり、サンプル数が少ないデータもあったが、低リン下ではaox1a株の方が成長が良いなど思いもかけない結果が得られている。(2)のルピナスを使う研究では、順調に進んでおり、班会議での発表も好評であった。現在、論文を投稿中である。
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今後の研究の推進方策 |
シロイヌナズナを使う研究は、サンプル数を増やし、得られたデータの確実性を高めたい。CE-MSの測定も行う予定である。ルピナスを使う研究は生理生態学的な手法で明らかにした現象の生理的メカニズムを調べていく予定である。
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