公募研究
新学術領域研究(研究領域提案型)
植物の葉や根の脂質組成は、環境変動に応じて大きく変化し、ストレスに適応しようとする。例えば、植物はリン欠乏にさらされると、生体膜のリン脂質を糖脂質に転換するという”膜脂質転換機構”によりリン欠乏ストレスに順応しようとすることがよく知られている。しかし、我々のこれまでの研究により、“環境ストレスと脂質転換”は、より多面的であることが分かってきた。本研究では特に、栄養欠乏(リンと窒素)および凍結ストレスに着目して植物の脂質転換機構を明らかにすると共に、様々な環境ストレス順応における脂質転換の生理的意義を解明する。我々はこれまでに、リン欠乏時の膜脂質転換において、リンの供給に関わるホスファチジン酸ホスホヒドロラーゼPAH1/PAH2の欠損体pah1pah2ではリン欠乏耐性を失うことを明らかにした。近年、栄養欠乏ストレスについては複合的な影響がある可能性が示唆されているため、本年度は窒素欠乏ストレス応答についても解析を行った。その結果、野生株に比べて、pah1pah2変異体では、リン欠乏だけでなく窒素欠乏耐性も著しく低下しており、その一方でPAH1/PAH2過剰発現体では、窒素欠乏耐性が上昇していることがわかった。さらに解析を進めたところ、窒素欠乏条件で生育すると、野生株では新鮮重、クロロフィル含量、光合成活性、窒素源となるタンパク質含量(主にルビスコ)などが低下するが、各過剰発現体ではそれらの低下が顕著に抑制されていることがわかった。野生株と過剰発現体の間に脂質組成の違いが見られなかったことから、PAHの過剰発現による脂質代謝の活性化が窒素欠乏耐性を付与している可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
pah1pah2変異体における凍結耐性のメカニズムについては解析が遅延しているが、そのほかの研究については順調に進捗している。
1. リン欠乏時の膜脂質生合成変異体pah1pah2における栄養ストレス耐性機構の解明PAH1およびPAH2過剰発現体は窒素欠乏耐性が付与されていることがわかったので、来年度以降はそのメカニズムを解明する。また、pah1pah2変異体にみられる乾燥ストレス耐性が、PA蓄積にともなうアブシジン酸応答の変化によるものなのか、小胞体肥大によるワックス量増加によるものなのかを明らかにする。2. リン欠乏時の膜脂質転換に関わる主要糖脂質合成酵素MGD3過剰発現体の解析今年度までに、スクロース添加生育時の成長促進にMGD3が部分的に寄与していることを明らかにした(論文投稿中)。平成26年度は、さらに糖脂質合成系を強化した形質転換体を単離し、解析を進める。
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Biochim Biophys Acta
巻: 1841 ページ: 475-83
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