植物の脂質組成は、環境変動に応答して大きく変化し、さらされたストレスに適応しようとする。たとえば、植物では、リン欠乏にさらされると、生体膜中のリン脂質を糖脂質に転換するという”膜脂質転換”が起こる。しかし、我々のこれまでの研究により、”環境ストレスと脂質転換”は、より多面的であることがわかってきた。本研究では、特に栄養欠乏(リンと窒素)および凍結ストレスに着目して植物の脂質転換機構を明らかにするとともに、様々な環境ストレス順応における脂質転換の生理的意義を解明する。 研究代表者らのグループでは平成24年度までに、リン欠乏時の膜脂質転換において、リンの供給に関わるホスファチジン酸ホスホヒドロラーゼPAH1/PAH2の欠損変異体では、リン欠乏耐性を失うことを明らかにした。近年、栄養欠乏ストレスについては複合的な影響がある可能性が示唆されているため、平成25年度は窒素欠乏ストレス応答についても解析を行った。その結果、野生株と比較して、変異体ではリン欠乏だけでなく窒素欠乏耐性も著しく低下しており、その一方で、PAH過剰発現体では、窒素欠乏耐性が向上していることがわかった。窒素欠乏生育下では、野生株では新鮮重や光合成活性の低下が起こるが、過剰発現体ではそれらの低下の抑制がみられた。平成26年度は、さらに植物体内の窒素含量、遊離脂肪酸含量を測定することにより、過剰発現体で見られる窒素欠乏耐性付与のメカニズムがわかった。
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