公募研究
新学術領域研究(研究領域提案型)
研究標的であるイネのOsHKT1;4, 1;5 Na+輸送体のイネ耐塩性への個々の貢献度と重要性を調査し、以下に列挙する成果を得た。(1)OsHKT1;4遺伝子発現抑制イネ株に塩ストレスを処理して表現型を調査した結果、栄養成長期においては影響は見られなかったものの、生殖成長期のイネでは、遺伝子抑制株は顕著に大きなダメージを受けて、種子収量も著しく低下した。(2)OsHKT1;4遺伝子の発現は、栄養成長期では低いレベルであるが、生殖成長期のイネの節で塩ストレス下で顕著に誘導されてくることが判明した。特に、穂へとつながっている分散維管束で強く発現している事も明らかにした。(3)OsHKT1;4遺伝子内に点変異が挿入され、Na+輸送活性が著しく減少、あるいは上昇したタイプの遺伝子を持つイネ株のホモ変異株を単離した。また、OsHKT1;4遺伝子の発現が高度に増加しているイネ変異株(高発現株)の単離にも成功し、栄養成長期の高発現株が塩ストレス下に顕著な耐性を示すことを発見した。(4)生殖成長期のOsHKT1;5遺伝子破壊イネ株に塩ストレスを処理した結果、変異株は野生型よりも古い葉により強いダメージ(白化・枯死)を受け、種子の収量も有意に減少した。また変異株は、止葉葉身と葉鞘に顕著にNa+を高蓄積している事が判明した。(5)OsHKT1;5遺伝子も、OsHKT1;4同様に節の分散維管束で強く発現していたが、塩ストレス下において発現量が減少した。しかし、止葉葉身において若干であるが統計的に有意な発現上昇を示すことが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
研究標的であるOsHKT1;4, 1;5の個々の輸送体の生理機能およびイネ耐塩性への重要度を明らかにする事を最低限の目標に定めて研究を進めてきたが、新規の結果を含めそれらに関する知見の蓄積が進んでいる。また両遺伝子の機能不全が認められるイネ株の準備も完了し、より詳細な解析を行う準備も整った。予期せぬ結果がいくつか重なったこともあり、得られた成果を若干論文として公表する日程が遅れているが、最終年度の目標として達成できる見込みである。標的輸送体分子を制御している因子の遺伝子単離の目標に関してのみは、そこへ尽力する余力をそがれてしまったため計画よりも遅れを生じている。
ここまで個々に明らかにしてきたOsHKT1;4およびOsHKT1;5に関する研究成果をもとに、最終年度に達成すべき目標と研究の推進策に関して以下に概術する。(1)各遺伝子に関する分子・生理機能の詰めの実験と再現性を取る実験を進め、論文という形でできるだけ早期に公表する。(2)両OsHKT1輸送体の機能に欠陥のある変異イネ株を利用して、塩ストレス下で詳細な生理学的解析を行うことで、イネ耐塩性への両遺伝子機能の重要性を明らかにし、かつそれらの生理機能の全容解明を目指す。(3)本年度単離したOsHKT1;4遺伝子高発現株、およびOsHKT1;4輸送活性上昇変異イネ株に塩ストレスを処理し、耐塩性が向上しイネの収量が増加するか詳細な解析を行い、将来の育種への礎となる知見を蓄積する。(4)各OsHKT1輸送体の活性を制御する可能性のある分子を単離するために、変異酵母をを利用した制御因子のcDNAのスクリーニングを遂行する。(5)OsHKT1;4の発現の高い塩ストレス下のイネの節において、同様に発現が高まる遺伝子群を選抜し、後の解析の礎となる知見を蓄積させる。
すべて 2013
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)
Nature
巻: 497 ページ: 60-66
10.1038/nature11909