研究領域 | 大地環境変動に対する植物の生存・成長突破力の分子的統合解析 |
研究課題/領域番号 |
25119710
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
伊藤 正樹 名古屋大学, 生命農学研究科, 准教授 (10242851)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 細胞増殖 / 植物 / 発現制御 / 細胞周期 / ストレス応答 / Myb転写因子 / 遺伝子 / シロイヌナズナ |
研究概要 |
植物においてG2/M期遺伝子群の制御に関わることが知られているR1R2R3-Myb転写因子が環境ストレスにより誘導される細胞増殖の抑制に寄与しているかどうかについて検証を行った。R1R2R3-Mybには転写活性化因子としての機能を持つグループ(活性化型Myb)と抑制因子としての機能を持つ抑制型Mybが存在する。シロイヌナズナにおける活性化型Mybの変異体では、サイトキネシスに特徴的な異常を持つことが分かっている。そこで、様々な環境ストレスやストレス誘導性のホルモンが、この変異体の異常に影響を与えるかどうか解析を行った。その結果、塩ストレスにより顕著にサイトキネシスの異常が促進されることがわかった。この結果から、塩ストレスに曝された植物ではR1R2R3-Mybの働きを制御することで細胞分裂を抑制している可能性が考えられた。さらに野生型植物でも塩ストレス下ではサイトキネシスに同様の異常を示すこと、この異常は抑制型Mybの変異によって緩和されることがわかった。塩ストレス下での成長解析から、野生型植物で見られるストレスによる成長抑制は、抑制型Mybの変異により緩和され、活性化型Mybの変異により促進されることが示された。このときR1R2R3-Mybの標的であるG2/M期遺伝子群の発現も予想される発現変動を示した。また、活性化型Mybと抑制型Mybの変異を同時に持つ植物では、それぞれの単独の変異体の中間的な表現型を示した。これらの結果は、R1R2R3-Mybが塩ストレス下の成長抑制に重要な働きを持ち、ストレス下では競合的に作用することが考えられた。ストレスのない条件では活性化型Mybと抑制型Mybは、競合せず協調的に働くことを従来の研究から示されており、ストレスにより、おそらく抑制型Mybが何らかの制御を受けることで活性化型Mybと競合し細胞分裂を抑制しているのではないかと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
活性化型R1R2R3-Mybの変異体を用いた実験から、塩ストレスがR1R2R3-Mybに作用し、G2/M期の発現抑制を通じて細胞分裂の低下および成長抑制を引き起こしていることが強く示唆された。とくに抑制型Mybの変異体では塩ストレス下での成長抑制や分裂の異常が野生型植物に比べて緩和されるという結果は、R1R2R3-Mybとストレスによる成長抑制を強く結びつけるものであり、これまでに多くの部分が謎であったストレスと成長抑制の関係に新たな仕組みがあることを提案することができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度の研究から、塩ストレスによる植物の成長抑制にR1R2R3-Mybが深く関わっていることが示されたので、今後はそのメカニズムに焦点をあてた研究を進める予定である。これまでの予備的な結果からは、塩ストレス下においても抑制型Mybの発現に大きな変化はないことから、抑制型Mybの翻訳後修飾や他のタンパク質との複合体形成がストレスにより調節されている可能性が考えられる。抑制型Mybがタンパク質複合体を形成しているという予備的な結果を得ており、今後は複合体を形成するタンパク質の同定やストレス下での複合体の動態について解析を行っていく予定である。一方で活性化型Mybが塩ストレスにより制御される可能性もあり、ストレスによる活性化型Mybの蓄積の変化やタンパク質複合体の形成についても解析する。
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