研究実績の概要 |
本年度は,栽培進化によって広域適応的に分化した栽培オオムギの品種群毎の開花時期制御の変異を,(1)数理モデルによる温度閾値と暴露期間の推定,(2)QTL解析による「秋播性」自然変異の遺伝解析を通して明らかにすることを目的とした. (1)播性程度の異なる6系統(III~V,各2系統ずつ)の過去6年分の圃場栽培データと栽培期間中の日平均気温データから,各系統の温度閾値および暴露期間を推定したところ,播き性程度IIIでは15℃程度が閾値であるのに対して,IVおよびVでは10℃前後であり,オオムギが低温と感じる閾値温度が異なることが明らかとなった.IVとVとの間では必要な暴露期間に違いがあり,「秋播性」の変異を数理的な手法により記載することに成功した. (2)「秋播性」同士の交配由来の分離集団を用いたQTL解析の結果,「秋播性」の量的変異を説明する4つのQTLを見出した.これらのうち3つのQTLはそれぞれVRN1, VRN2, VRN3を含む領域に見出され,QTL解析で推定される遺伝効果と矛盾のない構造変異および発現差が検出されたことから,これらの遺伝子の関与が強く示唆された.(1)で温度閾値および暴露期間を推定した6系統のVRN1, VRN2, VRN3の塩基配列を比較したところ,VRN1でのみ推定したパラメーターと連関する構造変異が見出された.一方,3H染色体で見出されたQTL領域には既知の春化或いは花芽分化に関わる遺伝子は報告されておらず,「秋播性」の量的変異を支配する新たな遺伝子座と考えられた.さらにVRN1領域および3HのQTLは,倉敷市での圃場秋播栽培での圃場出穂日QTLとしても検出されたことから,「秋播性」の量的変異をモデル化し開花予測に取り組むためには,この新規QTLの原因遺伝子を特定すると共に,変動環境下における発現パターンを明らかにする必要がある.
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