研究領域 | 大地環境変動に対する植物の生存・成長突破力の分子的統合解析 |
研究課題/領域番号 |
25119717
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
坂本 敦 広島大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (60270477)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | アブシジン酸 / アラントイン / プリン代謝 / ストレス応答 / 代謝中間体 / 多機能代謝 |
研究概要 |
本研究では,植物代謝の多機能性の具体例として,ながらく窒素栄養のリサイクル代謝と位置づけられてきた核酸塩基代謝を取りあげ,当該代謝が如何にして植物のストレス適応機構に貢献しているのかを,代謝中間体であるアラントインに備わる潜在的な生理活性を足掛かりに解明することを目的とする。本年度は,シロイヌナズナを用いて主にアラントインによる ABA 応答の亢進作用について解析を進め,以下の研究成果を得た。 1.アラントインによる ABA 応答亢進の作用機序:アラントインの蓄積が二つの ABA 生成経路(新生経路および配糖体からの再生経路)を活性化することにより ABA 応答を亢進することを,各経路に欠損を持つ変異株を用いた遺伝生理学的手法により示した。再生経路の変異株では,新生経路が正常であるにもかかわらず ABA の生成や応答が亢進しなかったことから,アラントインのプライマリーな作用点は再生経路であり,この経路の活性化により ABA レベルが上昇し,その結果,正のフィードバックを介して新生経路が活性化されることが示唆された。 2.アラントインに非応答性な変異体の単離:アラントインの蓄積に端を発して,ABA 応答の惹起に至る過程に関わる因子を遺伝学的に同定することを企図して,マイクロアレイ解析により見出されたアラントイン応答性遺伝子のプロモーターの発現制御下でレポーターを発現する形質転換株を作出した。現在,その変異株ライブラリーを作出しつつある。 3.アラントインの代謝操作によるストレス耐性の改変:ストレス耐性の実質的改変におけるアラントイン代謝操作の実効性を検証することにより,ストレス適応におけるアラントインの生理学的重要性を個体レベルで示す目的で,アラントイン異化をストレス応答的に抑制し,この代謝中間体を迅速かつ高レベルに蓄積する形質転換株を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題において最も重要な研究項目である「核酸塩基代謝が,その代謝中間体であるアラントインを介して ABA 応答を亢進する分子メカニズム」について,実質的な研究成果が得られ,これを取り纏めて原著論文として公表できたため。また,その他の研究項目についても,その基盤となる変異株や形質転換株の作出が進み,次年度の研究計画の遂行に一定の目途が立ったため。
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今後の研究の推進方策 |
1.アラントインによる ABA 応答亢進の作用機序 アラントインのプライマリーな作用点が,ABA 再生系である可能性が示されたため,その鍵酵素である ABA 配糖体分解酵素の組換えタンパク質を用いた in vitro 再構成系において,アラントインが当該酵素を直接的に活性化するか否かを検証する。なお,当該酵素は単量体の多量体化により活性化するが,アラントインが in planta でこのプロセスを促進することは,アラントインを蓄積する変異株やアラントインを投与した野生株を用いた研究からすでに明らかにしている(但し,アラントインの作用が直接的であるか間接的なものかは不明)。 2.アラントインに非応答性な変異体の単離 変異株ライブラリーのスクリーニングを実施し,アラントインに応答しない変異株を単離し,変異の原因遺伝子を同定することで,アラントインの蓄積から ABA 応答の亢進に至るプロセスに関与する因子の存在を明らかにする。 3.アラントインの代謝操作によるストレス耐性の改変 ストレスに応答して迅速かつ高レベルにアラントインを蓄積する形質転換株を作製したので,乾燥や高浸透圧などに対する応答を生理学的に評価し,ストレス耐性の実質的改変におけるアラントイン代謝操作の実効性を検証する。
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