研究領域 | 大地環境変動に対する植物の生存・成長突破力の分子的統合解析 |
研究課題/領域番号 |
25119718
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
粟津 暁紀 広島大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (00448234)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 遺伝子揺らぎ / 揺らぎと応答 / ストレス応答 / データ解析 |
研究概要 |
本研究では、植物ホルモン群の代謝及びシグナル伝達における相互関係を、実験データの理論的解析に基づいて考察する。今年度は主に、ホルモン代謝系のモデルで取扱う「注目すべき遺伝子」の候補を考えるため、各遺伝子の環境変化等による発現量変化の大きさに加え、個体間の遺伝子発現「揺らぎ」、つまり同一の遺伝型をもつサンプルを用いて同一の実験を行った際に生じる、サンプル間の平均的な差に着目した。遺伝子発現には常に揺らぎが伴うが、実は遺伝子毎に揺らぎやすさが異なる可能性がある。そこで公共データベースAtGenExpress 上の遺伝子発現データを用い、通常生育環境における各遺伝子発現量の揺らぎを調べた。その結果、遺伝子機能毎に揺らぎの傾向が異なり、特に環境応答に関わる遺伝子グループの発現が揺らぎやすい傾向を持つ事が示唆された。また大きな揺らぎを示す遺伝子は、様々なストレスが与えられた場合に、平均的に大きな発現変化(応答)を示す傾向がある事を見出した。その一方でストレスホルモンである ABA,JA,SA 関連遺伝子を比較すると、ABA のみ、他と揺らぎと応答の相関の仕方が異なっており、相関の仕方が遺伝子機能と密接な関係を持つ可能性を見出した。 また本研究で進めているデータ解析の手法を、心臓病の一種であるブルガタ症候群の患者と健常者の心電図データ解析へ応用した。そしてある指標に基づく散布図から、健常者と患者の区別が可能になる事や、健常者に見られる特徴的な変動と罹患者に見られる特徴的な変動の存在を見出した。 更に、植物と同様に光合成を行う微生物であるミドリムシの、光ストレス下におけるストレス応答としてのミドリムシ集団運動についても、実験的考察をすすめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、植物ホルモン群の代謝及びシグナル伝達における相互関係を、実験データの理論的解析に基づいて考察する。このような大域的な制御関係のモデル化を目指す研究では、システムの構造・ダイナミックスの根幹をなすと考えられる、注目すべき変数(自由度)を抽出する必要がある。従来の研究では、多くの場合そのような変数として、ストレス等による発現変動がある閾値よりも大きくなる遺伝子の発現量を取り扱って来た。つまり「平均値の変化」のみを取り扱っていた。それに対し今年度の研究では、平均値のみならず発現の揺らぎも、遺伝子の重要な特徴量である事を見出し、それにより各ホルモン代謝径路に属する遺伝子間の特徴の違いを、より明確にする事ができた。より具体的には、揺らぎに着目する事よって、「揺らぎが大きく、それと相関して応答も大きい遺伝子」のグループ、逆に環境変動などによる発現変化が通常環境での「揺らぎ」より十分大きい(相対的に「揺らぎの小さい」)遺伝子グループ、といった異なる応答特性のグループが存在する可能性や、各ホルモン代謝系毎にその特徴が異なる可能性を見出し、従来の解析では得られない知見が得られつつある。 また従来行われて来た多変量解析の手法を組み合わせた、時間のずれた遺伝子発現変化間の因果関係の推定や、そこからの代謝物量の推定の方法も、おおむね考察済みである。そして各ホルモンがたのホルモン代謝関連遺伝子に影響を及ぼす時間スケールの見積もり等も進める事ができた。 従って研究は概ね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的は、植物の生長とストレスに対する生体防御を担うシグナル伝達の柱である、「植物ホルモン代謝系におけるホルモン同士における相互調節」および「生体シグナル伝達におけるホルモン間相互作用」について、実験データの解析に基づく制御関係構造の推定と、そのダイナミックスのモデル化を行うことである。そのために本年度は、公共データベース状で公開されている複数のシロイヌナズナの網羅的遺伝子発現データ、及びイネの網羅的遺伝子発現データを用い、特にそれらの植物の初期の成長・ストレス応答で重要な働きを担う植物ホルモンと考えられている、オーキシン、ジベレリン、サイトカイニン、エチレン、ブラシノステロイド、アブシシン酸、ジャスモン酸、サリチル酸の相互関係と動態のモデル化を進める。 解析において、昨年度までは上記植物ホルモンの合成及び分解に関わる遺伝子の動態にのみ着目し、ホルモン間の関係を論じて来た。それに対し今年度は、より広範に植物ホルモンに応答する遺伝子、及びそのホルモン代謝遺伝子の上流因子として働くと考えられる遺伝子を、文献の参照及び発現の相関解析等によりサーチし、それらを含めた解析を行う。その際に、昨年度までの成果で得られた、遺伝子発現の「揺らぎと応答」の関係、関係の仕方も考慮に入れた遺伝子の特徴付けを利用し、システムの挙動を実効的に支配する変数と、それらの繋がりの探索を試みる。また、イネとシロイヌナズナ双方のデータ及び解析結果を比較する事により、植物に普遍的な性質及び種固有の性質の抽出、分類を試みる。
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