研究領域 | 大地環境変動に対する植物の生存・成長突破力の分子的統合解析 |
研究課題/領域番号 |
25119719
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
白石 文秀 九州大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (90171040)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 代謝反応システム / 速度パラメーター決定法 / バイオケミカルシステム理論 / 無次元化 / 束縛条件 / 数式モデリング |
研究概要 |
植物における代謝反応現象を調べるには、まず代謝反応ネットワークに対する数式モデル構築が必要である。これは代謝物濃度の時間変化データに基づき決定される。しかし、実測データには測定誤差が大きく、測定不能な代謝物も多くある。本年度は実測データの様々な状況に対応するため、以下の3つの数式モデル構築法を確立し、大きな成果を得た。 第1に、代謝物プールから流出する流束が必ずその代謝物の濃度に依存することに基づき、流出流束式をその代謝物濃度のみの関数としてバイオケミカルシステム理論におけるS-システム型式で表す、巨視的視野に立った数式モデル構築法を開発した。計算結果は、流出流束が他の代謝物濃度の影響を受けても、目的代謝物濃度の時間変化をうまく表すことができた。本法は、大規模代謝反応システムの代謝物濃度が取る挙動を迅速に知りたいときに有用である。 第2に、S-システム型式中の速度パラメーターをNewton-Raphson(N-R)法により決定する収束計算法を開発した。N-R法は最も基本的収束計算法であるが、これまで本システムのパラメーター決定へ適用した者がいなかった。本法による計算は、従来法よりも著しく少ない回数で収束した。また、本法が大規模システムにも対応できることを明らかにした。 第3に、S-システム型式を無次元化してパラメーターを決定する方法(PENDISC法)を開発した。決定すべき反応速度定数の数を無次元化で半分にすることができ、ネットワーク構造に基づく束縛条件の適用でさらに少なくすることができた。さらに、パラメーター数を激減させるため反応次数をその平均的値(通常0.5、阻害のとき0.5)に設定したが、このときでも数式モデルによる計算結果は代謝物濃度の時間変化を十分に表すことができた。 大規模システムでの数式モデル構築の際には、これらのハイブリット法を用いる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画では、S-システム型式を無次元化してパラメーターを決定する方法のみの構築を目指していたが、研究の進展過程で、巨視的視野に立った数式モデル構築法とNewton-Raphson法によりS-システム型式中のパラメーターを迅速に決定する数式モデル構築法のアイデアが浮かび、これらについても検討した結果、最終的に完成にこぎ着けることができた。 特に、Newton-Raphson法に基づくS-システム型式中のパラメーター決定法は、そのアルゴリズムが煩雑であるため誰も構築した者がいなかったが、今回の研究で初めてその構築に成功した。検討の結果、その計算はほとんどの場合10回以内で収束し、10万回程度を費やす従来法よりも非常に短い時間でパラメーター決定が可能であった。 大規模代謝反応システムにおける代謝物濃度の網羅的測定データ(メタボロミクスデータ)は現時点ではまだ完全なものであるとは言えない。その時間変化データは代謝物の違いによって大きな測定誤差を含むものがあり、またまったく検出できないものもある。さらに、データ数の多いものや少ないものがある。本研究ではBSTのS-system型式に基づく数式モデリングを目標としているが、その方法は測定データの品質の様々な状況に対して対応できなければならない。今回構築した3つの方法を組み合わせるならば、想定される様々な状況に対応したモデリングが可能であり、このことから、現在実施している研究は当初の計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
シロイヌナズナのメタボロームデータは、すでに理化学研究所、北大、東大の研究グループにより高性能LC/MSを使って測定されている。そこで、今後はこの研究グループの支援を受けながら、シロイヌナズナの代謝反応システムに関するコンピューター解析を中心に研究を推進する。また、数式モデルを使った感度解析のための新たな定常状態感度計算ソフトの開発、すでに開発している動的感度計算ソフトの性能評価を行う。具体的にはつぎのようである。 1番目の研究内容では、まず、シロイヌナズナのアミノ酸合成システムにおいて数式モデルを構築する。つぎに、作成した数式モデルを用いて動的感度解析等を行う。さらに、定常状態に達したシステムへ外部からリジン、スレオニンを添加することで撹乱を与えたときのシミュレーションなどを行い、得られた結果の実験データとの比較を行うことで、本システムの反応現象を明らかにする。以上、コンピューター解析結果の実験データとの比較を通じて、シロイヌナズナに特有な代謝反応システムの特徴を明らかにする。 2番目の研究内容では、まず、定常状態感度ソフトCOSMOSの開発と性能評価を行う。定常状態感度計算では様々な形で与えられる数式モデルの定常状態値を探すことが容易ではない。そこで、実験を主とする研究者でも簡単に定常状態値の計算が可能なようにするため、新たな計算アルゴリズムを構築する。また、常に信頼できる感度値を得ることができるように計算の高精度化を試みる。すでに開発が完了している動的感度ソフトSoftCADSについては性能評価を中心に行う。とくに、計算の超高精度化を可能としているTaylor級数法の計算の特性を明らかにする。
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