概日時計は24時間よりも多少短い(多少長い)周期の光サイクルにも同調できるが、短すぎる(長すぎる)と同調できなくなる。この同調から非同調へ転移する臨界点を「同調臨界点」と呼ぶ。そこでは体内時計は不安定化し、生育が非常に不均一になることが観察されている。一方で、同調条件の中でも、概日時計に備わる固有の周期(フリーラン周期)と異なる明暗周期では、生育が大きく低下することが知られる。この現象は「サーカディアン共鳴現象」と呼ばれ、そのメカニズムは未だ不明である。本研究では、概日時計の同調現象に関連した生育不良を引き起こす生理機構を解明することを目的に行った。 糖代謝モデルと弱パルス入力による概日時計の位相制御モデルを融合させ、非同調ストレスの数理モデルの提案を試みた。ここでは、ストレスの指標として、葉内におけるショ糖飢餓かつショ糖過剰を導入した。シミュレーションの結果、非同調条件下ではストレス指標が増大し、非同調現象が糖代謝モデルによって説明できる可能性が示唆された。 次に、シロイヌナズナCCA1::LUCを用いて、非同調条件下における時計遺伝子CCA1の発現リズムを精密に計測し、かつ実験終了時のサンプルに対してRNA-seq解析を試みた。得られたトランスクリプトームデータを分子時刻表によって解析した結果、非同調条件下において時刻表示遺伝子群(151個)が示すべき概日リズムパターンに大きな乱れが確認された。つまり、概日時計によるトランスクリプトームの調節機能が正常に働いていないことが判明した。ストレス応答遺伝子群の挙動解析を進めているが、今後更なる実験と解析が必要である。 本研究により、位相方程式が適応できる弱パルス入力の非同調に対する数理モデルを提案でき、またトランスクリプトーム解析によってストレス状態の定量化と、ストレス発生機構の解明について手がかりを得ることができた。
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