研究領域 | 大地環境変動に対する植物の生存・成長突破力の分子的統合解析 |
研究課題/領域番号 |
25119722
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 東京農業大学 |
研究代表者 |
太治 輝昭 東京農業大学, 応用生物科学部, 准教授 (60360583)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | シロイヌナズナ / 塩ストレス / 浸透圧ストレス / accession / ナチュラルバリエーション |
研究概要 |
モデル植物として広く利用されているシロイヌナズナは、日本にも自生種が数種類あるように、世界中の様々な地域に生息し、その数は1000以上に上る。これまでの研究により、浸透圧ストレスに耐性を示すシロイヌナズナは、生育に影響を及ぼさない程度の塩ストレスを一定期間経ることで、海水と同程度の塩(浸透圧)にも耐性を示す「塩馴化能」が優れていること、さらに200種のシロイヌナズナを用いたGenome wide association studyにより、塩馴化能が1遺伝子座に制御されていることを明らかにした。この塩馴化能を制御する遺伝子座の同定と併せて、塩馴化能獲得に至るシグナル伝達経路を明らかにするため、塩馴化能を欠損した変異株のスクリーニングを行った。 塩馴化能を制御する遺伝子座の同定については、昨年度の同遺伝子座のシークエンス解析により明らかとなった17 kbpの欠損領域付近について、塩馴化能を有するaccessions、塩馴化能を欠損したaccessionsの同遺伝子座における遺伝型の決定、すなわちシークエンス解析を合計100 accessionsを目標に行っている。 一方、塩馴化能を有する浸透圧耐性シロイヌナズナ種子にイオンビームを照射することにより突然変異を誘導し、その次世代種子を用いて、塩馴化能を欠損したaccessionsと同様、浸透圧耐性を示さない変異株をスクリーニングしている。これまでにいくつかの候補株を単離し、1つについては次世代においても浸透圧耐性を欠損した変異株を取得した。この次世代への遺伝が確認できた変異株については、次世代ゲノムシーケンサーを用いたリシークエンスによって変異箇所の同定を行った。その結果、非常に効果的に候補原因遺伝子を絞り込むことに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
合計100 accessionsを目標に行っている、塩馴化能原因遺伝子座の遺伝型解析については、これまでに約50 accessionsについて20 kbp間のシークエンスを終了した。塩馴化能との関連解析により、原因遺伝子が明らかになりつつある。またこの解析をaccessionsが収集された地図上に落とし込むことにより、塩馴化能の進化的な議論をすることが出来つつある。 また上述のように、塩馴化能を有するシロイヌナズナに突然変異処理した種子を用いて塩馴化能欠損変異株のスクリーニングを行っている。1つの目的変異株については、ゲノムシークエンスの結果、原因遺伝子の候補が明らかとなった。マッピングを含めた遺伝学的解析の他、候補遺伝子を用いた相補試験により、原因遺伝子の特定を行っている。この変異株の他、いくつかの候補株が単離できており、順次、遺伝性の確認を行っている。また、塩馴化能を欠損している野生株に変異を導入した種子を作成して、逆に塩馴化能を獲得する変異株のスクリーニングも同時に行っている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの遺伝学的な解析により、どの遺伝子が塩馴化の制御に関わっているのかが明らかになりつつある。しかしながら、その遺伝子を介してどのように極めて高い浸透圧ストレス耐性の獲得に至るのかについては明らかになっていない。先行研究によって、塩馴化能を有するaccessions、欠損したaccessionsの他、これらを掛け合わせることによって作出したNear isogenic lines (NILs)、塩馴化能を欠損した変異株を保有している。これらを用いることにより、塩馴化していく過程でどのような転写レベルの変化が起こるのかをRNA-seqを用いて明らかにする。また現在、理化学研究所 環境資源科学研究センターの榊原均博士との共同研究により、塩馴化能を獲得する過程における全植物ホルモンの定量解析を行っている。これらの結果と合わせることにより、メジャーな科学雑誌への論文投稿を行う。 塩馴化能欠損変異株についても、1つの変異株については、先の論文と同時に別論文として投稿を行う。
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