モデル植物シロイヌナズナは、日本にも自生種が数種類あるように、世界中の様々な地域に生息し、そのエコタイプ (accessions) は1000以上に上る。先行研究により、高い浸透圧ストレス耐性を示すシロイヌナズナは、生育に影響を及ぼさない程度の塩ストレスを一定期間経ることで、海水と同程度の塩(浸透圧)にも耐性を示す「塩馴化後浸透圧耐性」に優れていること、さらに200種のシロイヌナズナを用いたGenome wide association studyにより、塩馴化後浸透圧耐性が1遺伝子座に制御されていることを明らかにした。昨年度までに、塩馴化後浸透圧耐性を有するaccessionと、欠損したaccessionの掛け合わせにより、Near isogenic lines (NILs)を作出し、原因遺伝子座をおおよそ特定し、さらに、塩馴化後浸透圧耐性を欠損した突然変異株の単離に成功した。本年度はこれらの実験材料を用いて、耐性メカニズムの生理学的解析、シグナル伝達経路の解明を試みた。 耐性メカニズムの解析については、理化学研究所 環境資源科学研究センターの榊原均博士との共同研究により、塩馴化能を獲得する過程における全植物ホルモンの定量解析を行った。その結果、浸透圧耐性に重要な役割を果たすアブシジン酸には、塩馴化後浸透圧耐性を有するaccessionsあるいはNILと、欠損したaccessionとの間に差が認められず、一般に知られている浸透圧耐性とは異なるメカニズムで塩馴化後浸透圧耐性に至ることが示唆された。 塩馴化後浸透圧耐性を欠損した突然変異株については、マッピングを実施し、昨年度実施したゲノムシークエンス解析と合わせて遺伝子座の絞り込みを行った。その結果、浸透圧耐性とは異なる表現型から、極めて可能性の高い原因遺伝子を特定することに成功した。
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