研究領域 | 生物多様性を規範とする革新的材料技術 |
研究課題/領域番号 |
25120505
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
浅川 直紀 群馬大学, 理工学研究科, 准教授 (80270924)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 生物模倣 / 高分子デバイス / ノイズ / ノイズ駆動信号処理 / 情報処理 / 相転移 / ポリ(アルキルチオフェン) |
研究概要 |
平成25年度は、パイ共役系高分子を中心に、ノイズ発生源に適した物質を探索し、確率的値素子の開発に着手した。物質探索の際には、形状の大きな変化を伴わない構造相転移やガラス転移に着目し、その相転移と、巨視的な電気物性との相関が大きな物質を探索した。その結果、構造様式制御型ポリ(3-デシルチオフェン)[RR-P3DT]が室温付近において、ポリ(3-ヘキシルチオフェン)[RR-P3HT]に比べて電気伝導度の大きな時間ゆらぎを有していることがわかった。このゆらぎは、複数伝導状態間の準確率的な遷移によるノイズ発生であり、マルチプルトラッピングとその熱的解放(MTRモデル)の枠組でのトラップ充填転移近傍のゆらぎが原因であることが示唆された。さらに、ノイズ測定により、このゆらぎのノイズパワースペクトル密度は、印加電圧の上昇に伴い、f-2型からf-1型へ変化することが分かった。このことは、印加電圧によって、ノイズパワースペクトル密度を制御することができることを意味しているため、ノイズ駆動型の信号伝達の際に重要な役割を担うと考えられる。 確率的値素子の研究開発に並行して、電界効果がゆらいだ電界効果トランジスタ(FET) の開発も行った。この不安定動作のFETには、パイ共役系高分子の相転移現象と結合した、確率的な負性抵抗現象を伴う非線形電流電圧特性といった準確率過程を用いることとした。現時点では、ゆらいだFETを作製する前段階として、安定動作するボトムゲート型およびトップゲート型高分子FETを作製し、共に、飽和領域を有する双安定特性を有することが分かった。また、確率共鳴現象の計測セットアップを構築し、既存の金属酸化物電界効果トランジスタ(MOSFET)を用いた確率共鳴分光測定を確立した。現在、RR-P3HTおよびRR-P3DTを用いた確率共鳴現象の発現を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度は、ノイズ発生源に適した物質を探索し、確率的閾値素子の開発を行う計画で研究を行った。物質探索の際には、形状の大きな変化を伴わない構造相転移やガラス転移に着目し、その転移と、巨視的な電気物性との相関が大きな物質を探索することとした。実際に、室温付近での秩序-無秩序相転移を有するパイ共役系高分子であるポリ(3-デシルチオフェン)[P3DT]を用いた縦型デバイス素子において、電気伝導度の大きな時間ゆらぎを観測することができたことから、確率的素子の開発に一定の目途がたったと考えている。また、ポリ(ヘキシルチオフェン)[P3HT]を用いたボトムゲート型およびトップゲート型の高分子電界効果トランジスタ(PFET)を作製し、共に、FET挙動に飽和領域を観測することができた。このFETの挙動は、excitable mediaとしてのニューロンに特徴的な電気特性である双安定性を模倣した挙動を示している。また、複数の伝導状態間の確率的な遷移を示す二端子素子は分子ノイズ発生器としても有用であり、ノイズ駆動型信号伝達や情報処理デバイスにとって重要な要素技術となると考えられる。以上のことから、平成25年度の研究成果は、研究計画と照らし合わせて、おおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度に引き続き、ノイズ発生源の物質探索と確率的閾値素子の開発を行い、確率的閾値素子の作製とその周辺技術を確立する。さらに、確率的閾値素子を用いたノイズ駆動センサおよびノイズ駆動スイッチの開発を行う。具体的には、複数の素子から成る回路に必要な電極を、金属マスクを用いた真空蒸着法により作製し、センサおよびスイッチの電気的特性を調べる。 以上の研究課題と並行して、確率的閾値素子に一方向信号伝達性能を付与するために、(i) 確率的電界効果トランジスタ(FET) と(ii) 確率的光電変換性能を有する確率的フォトカプラの開発にも着手する。FETの開発では絶縁膜の開発がキーとなることが多いが、本研究では、確率的動作の発現にも注力する。確率的フォトカプラは、高分子エレクトロルミネセンス(EL) 素子と光起電力(PV) 素子から構成され、FETの場合と同様に、確率的挙動の発現に注力する。以上のように本研究では、そのような不安定なスイッチング現象を示す高分子材料を探索し、確率的なEL素子またはPV素子の作製を行う。 具体的には、EL素子としては、ポリフルオレン(PFO)系のものを予定しており、高分子薄膜の固体構造の違いによるEL挙動の不安定性の違いを調べ、確率的なEL特性の発現に注力する。一方、PV素子にはポリアルキルチオフェン(P3AT)系とフラーレン誘導体を用いた典型的なバルクヘテロジャンクション型のものを予定している。平成26年度は、このようなP3ATを用いた確率的な光電変換効率を有するPV素子の研究開発も併せて行う。上述のEL素子とPV素子のいずれかまたは一方の素子が確率的挙動を示すことができれば、確率的なフォトカプラの実現が可能となり、一方向信号伝達性能を有するシナプス模倣素子の実現が可能となる。 以上の研究を実施し、平成26年度は最終年度として研究全体の総括を行う。
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