研究領域 | 生物多様性を規範とする革新的材料技術 |
研究課題/領域番号 |
25120512
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 独立行政法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
出口 茂 独立行政法人海洋研究開発機構, 海洋・極限環境生物圏領域, チームリーダー (40344296)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | セルラーゼ / セルロース / ナノファイバー / バイオセンシング / 深海 |
研究概要 |
申請者らはSPOT(Surface Pitting On nanofibrous maTrix)と呼ばれる、従来法とは異なる原理に基づいたセルラーゼ活性のセンシング手法を開発した。本手法はセルロースナノファイバーからなるヒドロゲルを基質に用い、ゲル表面に数十pLのセルラーゼ溶液を滴下した際に加水分解によって形成されるピットの体積を指標としてセルロースの酵素加水分解をセンシングする。 本年度は、セルラーゼによってセルロースゲル表面にピットが形成される動的過程を測定できる実験系を構築し、加水分解速度を測定することに成功した。同時にピット形成過程を記述する数理モデルの構築も試みたが、現在の測定システムでは1点の測定に約5分を要するために測定の時間分解能が十分ではなく、理論との比較が困難であることが明らかとなった。 また水に不溶な基質の加水分解に伴う体積減少を測定するというSPOTの測定原理を一般化するために、基質としてゼラチンのヒドロゲルを、また酵素としてプロテアーゼを用いて、プロテアーゼ活性を測定する実験手法を確立した。加えて、SPOTを用いて深海環境から単離したセルラーゼ生産菌のうち、GE09株およびTYM8株のゲノム配列を解読した。前者に関しては、セルラーゼ遺伝子をクローニングし、組み換え実験によって大量発現させた酵素が、実際にセルラーゼ活性を有することを確認した。また後者に関しては大量培養を行い、酵素を精製することに成功した。 さらにSPOTによる酵素活性測定手法の更なる応用可能性を探ることを目的に、第12回国際バイオテクノロジー展/技術会議(BIO tech 2013)(2013年5月8日-5月10日、東京ビッグサイト、東京)および第13回国際ナノテクノロジー総合展・技術会議(2014年1月29日-1月31日、東京ビッグサイト、東京)においてブース出展ならびにセミナーを行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、1)SPOTによるセルラーゼ活性検出機構の解明、2)SPOTの一般化・発展的応用、3)SPOTを利用した生物資源の開拓の3つである。1)に関しては、ピット形成ダイナミクスを測定できるまでに実験手法を進化させたことは大きな成果である。同時に数値モデルとの比較を行うためには、より高い時間分解能で測定を行う必要性が明らかになったが、下に述べる通り、新しい測定装置を導入することによって解決のメドはついている。2)に関しては、プロテアーゼの活性を測定することに成功した。加えてゼラチン/プロテアーゼ系での実験結果が、セルロース/セルラーゼ系の実験結果よりも繰り返し再現性に優れていることを見出した。これは今後ピットの形成ダイナミクスを解明する上で大変重要となりうる新知見である。3)に関しては、ゲノム解析ならびに大量培養を併用したアプローチによって、深海微生物由来セルラーゼに固有の特性解明に向けた研究が順調に進んでいる。これらを総合すると、研究は順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
SPOTによるセルラーゼ活性検出機構を解明するためには、測定の時間分解能を向上させ、数値モデルとの比較を行うことが必須である。そこで平成25年12月、所属機関より措置された研究費によって新しい3Dレーザー顕微鏡を導入した。新装置は、高速スキャンが最大の特徴である。予備的な測定では、従来装置で1つのピットの体積を測定するのに約5分を要したのに対し、4つのピットの体積を20秒程度で測定できるメドがたちつつある。今後は新装置を用いた実験によって、高い時間分解能でピット形成ダイナミクスを測定し、数値モデルと比較することによって、ピットの形成機構を明らかにする。その際には、新たに実験系を確立したゼラチン/プロテアーゼ系の利用も考慮する。深海微生物由来のセルラーゼについては、ドメイン解析等を用いて、陸上微生物由来セルラーゼとの差異を明確にできるよう、研究を進めて行く。
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