研究領域 | 植物の環境感覚:刺激受容から細胞応答まで |
研究課題/領域番号 |
25120703
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
三浦 謙治 筑波大学, 生命環境系, 准教授 (00507949)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 転写因子ICE1 / 低温シグナル伝達 / 低温ストレス応答 / カルモジュリン様タンパク質 / リン酸化 / カルシウムチャネル |
研究概要 |
植物が低温ストレスを感知した際にカルシウムが放出されるが、このカルシウムの認識に関して全く分かっていなかった。これまでの研究から低温シグナル転写因子ICE1とカルモジュリン様タンパク質CMLが相互作用することが明らかになっていたが、この相互作用がカルシウム依存的、低温依存的に強まることが本年度明らかとなった。また、CMLは植物ゲノム中に50種類あるが、特異性を調べる目的でICE1との相互作用、発現場所、及び低温依存的にICE1との相互作用が強まるかを指標に分類したところ、2つのCMLがICE1との相互作用が低温依存的に強まった。このことから、低温ストレスによって放出されるカルシウムの認識にはこの2つのCMLが関与している可能性が示唆された。 カルシウムの放出に関わると考えられる細胞膜局在型カルシウムチャネルMCAが低温シグナルや低温応答性遺伝子発現の調節に関わっているかを調べた。mca変異体では低温に応答して放出されるカルシウム量が減少していたが、低温誘導性遺伝子の発現は逆に上昇していた。これはmca変異体による影響により、補償的に上昇したものと考えられる。このため、MCAからのシグナルはICE1を介した低温シグナルとは違うシグナルに伝わると考えられる。このシグナルに関しては未だ明らかにできていない。来年度の課題である。 ICE1の活性化としてリン酸化が関わることが示唆された。このリン酸化のキナーゼとしてICE1と相互作用するMAPキナーゼが候補として考えられる。In vitroのリン酸化反応により、MAPキナーゼによるICE1のリン酸化が確認できた。このことから、MAPキナーゼによるリン酸化を介したICE1の活性化が考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
カルモジュリン様タンパク質によるカルシウム認識とそれをICE1依存的低温シグナル伝達機構につなげる部分を明らかに出来ている。また、50種類あるCMLから特異性を見出している。実際に植物においてこれらの2つのCMLの特異性明らかにする必要があると考えられる。 リン酸化に関してはMAPキナーゼとICE1がつながることで、ICE1の活性化に関わっていることが示唆された。ICE1のリン酸化部位を特定できれば良いが、ICE1は51のセリン残基を13のスレオニン残基をもつことから、その特定はかなり難しい可能性が挙げられる。
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今後の研究の推進方策 |
カルモジュリン様タンパク質に関しては2つのCMLの特異性を植物において明らかにするため、二重変異体の作製を行う。但し、この2つは隣合った遺伝子で、掛け合わせによる二重変異体の取得はほぼ不可能である。そこで、CRISPR/CAS9によるゲノム編集技術を用いることで、片方の変異体に変異を導入して、二重変異体の作出を目指す。 カルシウムチャネルMCAに関しては、葉緑体への影響を考慮して研究を進める。葉緑体は低温ストレス応答においても重要な位置を占めると考えられるが、その詳細なメカニズムはほとんど分かっていない。藻類の研究でPTOXの活性と低温ストレス耐性にある程度の相関があることが示唆されている。また我々はPTOXプロモーターにレポーター遺伝子を融合させたコンストラクトをもつ植物体を作出している。このPTOXの活性を指標に低温シグナル伝達機構との結びつきを調べる。 リン酸化に関してはMAPキナーゼ変異体を用いたDNAアレイを行い、ICE1とMAPキナーゼが同じような転写制御を受けるかを明らかにする。またMAPキナーゼ変異体におけるICE1のリン酸化の有無を明らかにすることで、in vitro, in vivo両面から、ICE1のMAPキナーゼによるリン酸化を明らかに出来るものと考える。
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