公募研究
新学術領域研究(研究領域提案型)
本研究では、様々な外部刺激で駆動する葉緑体の緊縮応答と呼ばれる機構に着目し、葉緑体を場とする植物の栄養応答を制御する新たな仕組みを明らかにすることである。緊縮応答はもともと、細菌に普遍的に保存された栄養飢餓応答制御機構として知られていたが、近年、その関連遺伝子が様々な高等植物のゲノム上に保存されていることがわかってきた。分子系統解析の結果、これらの遺伝子は、シアノバクテリアの細胞内共生によって植物細胞にもたらされたと考えられる。しかしその因子の生理学的役割は明らかとなっていない。そこで本研究では、モデル植物シロイヌナズナを材料に、様々な組換え体を作成し、それらを解析することで、葉緑体で機能する緊縮応答が、植物の栄養応答にどのような役割を果たすのかを明らかにすることを目指した。緊縮応答の中核を担う分子は、特殊な核酸分子ppGppで、この分子の細胞内存在量により緊縮応答は制御される。したがって、ppGppの濃度を測定することが、本研究の遂行に必須である。しかし植物内のppGpp量は、バクテリア内のそれに比して非常に少なく、測定が極めて困難であった。そこで本年度は、植物内のppGpp量を定量する系の構築を進めることとした。具体的には、近年導入されたLC-MS/MSを用い、ppGppの高感度定量系の構築を進めた。系の構築の3段階に分け、第一の行程では、細胞からの核酸画分の分離法を検討、第二の行程では、LCによる核酸の分離条件、第三の行程では、ppGpp検出におけるS/N比の向上を目指したフラグメントイオンの同定条件検討、を行った。その結果、これまでの検出法に比べ、検出感度を4~6桁上昇させることができた。またこの方法により、バクテリア(大腸菌)内のppGpp量を調べたところ、既知の報告と一致した。このことから、本定量系は本研究の目的にかなうものとなりつつあることがわかった。
3: やや遅れている
当初の研究目標は二つあり、それぞれ、①ppGppの高感度定量系の構築、②ppGppターゲットタンパク質の同定、であった。①に関しては、順調に研究を進めることができ、予想を遥かに超える高感度定量系の構築を確立しつつある。しかし、②に関しては研究があまり進展していない。これは、研究計画で予定していた放射性同位体ラベル化ppGppの作成が困難であることに起因している。この点の改善が今後必要と考えられる。
ppGppの高感度定量系に関しては、本年度順調に研究を進めることができ、予想を超える高感度定量系の構築を確立しつつある。実際大腸菌のppGppの高感度定量に成功している。今年度はこれを応用し、植物内のppGpp定量を行う。これまでに何度か植物サンプル由来のppGpp定量を行ったが、実際の検出には成功していない。これは液体クロマトグラフィーによる核酸分離の前処理において、植物の細胞壁由来物質等により精製が不十分であるためと考えられた。今後、植物由来サンプルに特化した前処理条件の検討を行う必要がある。具体的には、疎水性カラムとイオン交換カラムをタンデムに配置し、精製度を高めることを検討している。ppGppターゲットタンパク質の同定に関しては研究があまり進展していない。これは、研究計画で予定していた放射性同位体ラベル化ppGppの作成が困難であることに起因している。この点の改善が今後必要と考えられる。本年度は上記2つの実験に加え、ppGppを過剰に蓄積する組換え植物体の作成を進めることを検討している。得られた組換え体の表現型と、その植物内ppGpp量の相関を調べることで、植物の栄養応答における葉緑体型緊縮応答の生理機能解明に迫れるのではないかと考えている。
すべて 2013 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (9件)
Plant Physiology
巻: 163 ページ: 291-304
10.1104/pp.113.220129
光合成研究
巻: 23 ページ: 111-115