本研究では、様々な外部刺激で駆動する葉緑体の緊縮応答と呼ばれる機構に着目し、葉緑体を場とする植物の栄養応答を制御する新たな仕組みを明らかにすることである。 緊縮応答はもともと、細菌に普遍的に保存された栄養飢餓応答制御機構として知られていたが、近年、その関連遺伝子が様々な高等植物のゲノム上に保存されていることがわかってきた。分子系統解析の結果、これらの遺伝子は、シアノバクテリアの細胞内共生によって植物細胞にもたらされたと考えられる。しかしその因子の生理学的役割は明らかとなっていない。本研究では、モデル植物シロイヌナズナを材料に、様々な組換え体を作成し、それらを解析することで、葉緑体で機能する緊縮応答が、植物の栄養応答にどのような役割を果たすのかを明らかにすることを目指した。 昨年度に確立したLC-MS/MSを利用したppGppの高感度定量系を用いて、シロイヌナズナ内のppGpp量の日周変動を調べた。その結果、夜間に一過的な上昇を示すことがわかった。このppGpp量の上昇により、葉緑体および植物体全体がどのような影響を受けるのかを検証する目的で、一過的にppGpp合成を誘導する系の構築を進めた。具体的には、枯草菌由来のppGpp合成酵素を、エストロゲン処理で誘導されるプロモータ下に配置したコンストラクトを作成し、それを野生型シロイヌナズナに導入した。得られた組換え体に対し、ppGppの過剰合成を、エストロゲン処理により誘導したところ、数日後に葉の白化が観察された。このことから、ppGpp蓄積により、葉緑体の機能が全般的に抑制されると考えられた。
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