研究実績の概要 |
CO2濃縮機構を制御する因子CCM1とMYB転写因子LCR1を、緑藻クラミドモナスからこれまでに同定しているが、光合成生物においてCO2センサーやCO2シグナル伝達経路の全体像は明らかでない。CO2シグナル伝達因子を新たに同定するために、矩形波パルスによる高効率エレクトロポレーション法(Yamano et al., J. Biosci. Bioeng. 2013)を用いて、約20,000株のDNAタグindexライブラリーを作成し、この中から、低CO2 (LC)条件下で生育が遅延する高CO2 (HC)要求性変異株を3株単離した。3株とも野生株と比べて低CO2誘導性のCO2濃縮能が減少していた。特に、H82では細胞膜と葉緑体包膜にそれぞれ局在する無機炭素輸送体HLA3とLCIAの蓄積が失われていた。さらに、本来ピレノイドに集合するべきLCIBが葉緑体全体に広がった。H82株がHC要求性を示す原因は、無機炭素輸送体HLA3とLCIAの発現不良と、LCIBの局在異常による可能性が示唆された。H82の変異原因遺伝子は、シロイヌナズナの葉緑体カルシウムセンサー(CAS)の相同遺伝子であったことから、CO2センシングにカルシウムが係わる可能性が示唆された(Wang et al., Photosynth. Res. 2014)。また、窒素源が枯渇すると、細胞は酢酸を取り込みトリアシルグリセロール(TAG)に転換・蓄積するとともに、光合成を停止して次の世代を準備する。今回単離した低TAG蓄積変異株tar1-1は、取り込んだ酢酸を20%にしかTAGに転換できず、光合成の停止が遅れた。変異を相補する遺伝子の産物は、チロシン残基のリン酸化により活性化をうけるタンパク質リン酸化酵素DYRKであった。TAG蓄積がタンパク質リン酸化酵素により制御を受けることを今回初めて明らかにした。
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