公募研究
新学術領域研究(研究領域提案型)
病原菌感染と虫害によるシグナル伝達系は互いに拮抗する。これは、SAとJA、両植物ホルモンが誘導するレドックス状態に依存すること、すなわちSAではタンパク質のグルタチオン化レベルが亢進するのに対し、JAでは強く抑制されることを見出した。SAシグナルの鍵転写補助因子であるNPR1は、in vitroにおいてタンパク質のグルタチオン化レベルに依存して多量体化することを明らかにした。グルタチオン化していないタンパク質とNPR1を反応させても多量体化は生じないことより、NPR1は細胞内の酸化レベルをグルタチオン化を指標としてモニターし、一定レベルを超えると病原菌感染状態であると判断し、免疫応答を開始すると考えている。興味深いことに、シロイヌナズナに感染するPseudomonas syringaeは構造的、機能的にもJAと類似した毒素コロナチン(COR)を産出するが、CORもJAと同様にグルタチオン化を抑制することにより、NPR1の活性化を妨げることが示された。これは、病原性因子がNPR1の有する植物レドックス感知能を利用した感染システムであると言える。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、JAが寄生菌が誘導する免疫機構をどのように抑制するかについての概要を理解することが出来たと言える。すなわち、JAはグルタチオン分解酵素を発現誘導することにより、細胞内のグルタチオンプールを減少させ、結果としてタンパク質のグルタチオン化を強く抑制することを見出した。これにより、寄生菌に対する免疫に必須であるNPR1は活性化することができないことを明らかにした。
NPR1は、細胞内レドックスをタンパク質のグルタチオン化を指標としてモニタリングしているとの結果を得た。もしこれが事実であれば、NPR1は細胞内における被グルタチオン化タンパク質と一過的にジスルフィド結合を形成すると考えられるので、in vivoおよびin vitro両者においてこれを確認する。また、COR生産菌と非生産菌の感染性の差異が、植物のグルタチオン化誘導能を抑制することに起因するかを明らかにする。植物のレドックス応答は極めて多様な因子が介在するプロセスであるが、これをグルタチオン化の認識へと一元化し、その総量に依存して免疫系を活性化させる、極めて新奇であるが、生物に普遍的であるとも考えられるシステムであり、興味深い。実際、NPR1はジスルフィドイソメラーゼ様活性も保有しているデータが得られており、本酵素活性のin vivoにおけるレドックス認識能についても調査する。
すべて 2014 2013
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (17件) (うち招待講演 1件)
化学と生物
巻: 51 ページ: 728-729