研究領域 | 植物の環境感覚:刺激受容から細胞応答まで |
研究課題/領域番号 |
25120721
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
和田 正三 九州大学, 理学(系)研究科(研究院), 特任教授 (60011681)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 葉緑体運動 / 光受容体 / アクチン繊維 / CHUP1 |
研究概要 |
葉緑体光定位運動は、植物の生存と光合成の効率化にとって欠くべからざる生理現象であり、我々は移動に働く新規アクチン繊維(chloroplast actin filaments、以下cp-actinと略す)構造を発見した。cp-actinは葉緑体の外包膜上に存在するCHUP1により重合・維持される。従って、CHUP1が葉緑体の外包膜上をcp-actin重合部位に向かって移動し、そこに定着する機作の解明が重要である。本年度はCHUP1が細胞膜と結合している状況の把握とその機構の解析を目的とした。CHUP1は細胞膜タンパク質とCHUP1のN末端側のcoiled-coilドメインと結合していること、このN末端側はphot2依存のCHUP1挙動を制御するのに十分な領域であること、CHUP1-N末端側と結合する膜タンパク質はCHUP1-Interacting Protein1 (CHIP1)であることなどを確定した。さらに結合の解除にはphot2依存のリン酸化が必要であること、CHUP1とCHIP1のphot2依存のリン酸化部位の確定(理化学研究所中神弘史研究員、大阪府立大学徳富哲教授との共同研究)を行った。CHUP1の結合タンパク質であるCHIP1類似タンパク質はシロイヌナズナでは3遺伝子あるが、ゼニゴケには1遺伝子あるだけなので、そのノックアウトを作製し(京都大学河内孝之教授との共同研究)、葉緑体の膜結合を観察した。その結果ゼニゴケのCHIPノックアウトではCHUP1やKACの欠損変異体同様に、葉緑体の細胞膜との結合程度が弱く、葉緑体が膜から容易に外れることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
DUAL membraneシステムで得られたCHUP1結合膜タンパク質CHIP1が植物細胞内でもCHUP1と結合し、CHUP1の膜結合に関与していることを確定する必要があった。そこでまずCHIP1の生理学的機能を調べた。シロイヌナズナにはCHIP1類似タンパク質が3つあるため三重変異体作製の必要があり、現在作製中である。しかしゼニゴケにはCHIP1が唯一つしかないので、ゼニゴケのCHIP1ノックアウトを作製し(京都大学河内孝之教授との共同研究)、葉緑体の挙動を調べ、CHIP1の生理学的重要性が明らかになった。またCHUP1やCHIP1の光依存のリン酸化、脱リン酸化がCHUP1の膜からの離脱と定着に関わることも明らかになっているので、達成度は順調に進行していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
葉緑体運動機構の研究の進展にはCHUP1の動態制御メカニズムの解明が必須である。 CHUP1の膜との結合、膜からの離脱、膜上の移動の3要素を個別に解析する。膜と結合するタンパク質及びその結合ドメインの確定、そのリン酸化・脱リン酸化によるCHUP1との結合と離脱には、CHUP1とCHIP1のドメイン同士の結合部位の解明が必要なので、酵母ツーハイブリッド法等により確定する。CHUP1複合体を免疫沈殿法により植物体から単離し、その構成タンパク質からCHIP1以外のCHUP1の膜結合タンパク質を探索する。得られた候補タンパク質のリン酸化されるセリンあるいはスレオニンを確定した後、その部分をアラニン置換して、リン酸化がCHUP1の分布、引いてはcp-actinにどのような影響が出るかを観察する。CHUP1脱リン酸化に働くフォスファターゼの探索も行う。CHUP1の移動は葉緑体外包膜上を浮遊することで分布を変えると考えられるが、その場合、細胞骨格系タンパク質による積極的な移動と、生体膜の流動性を利用した受動的な移動が考えられる。細胞骨格系タンパク質の阻害剤実験から、その機構を確定する。
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