公募研究
新学術領域研究(研究領域提案型)
アブシシン酸(ABA)は、比較的内生量が高く、特に乾燥ストレス応答時の内生量はストレス前の数倍から数十倍に上昇する。また、ABAは複数の特徴的なMS/MSフラグメントを生成するため、他のホルモンに比べて一細胞からの検出・同定が比較的容易であると考えた。このため本年度は、乾燥に応答した気孔閉鎖時におけるABAの作用部位である孔辺細胞に着目し、一細胞からのABAの検出と、定量法の検討をおこなった。質量分析には、分解能が高く小数点以下4桁程度の精密質量が正確に得られるオービトラップ型MS/MSをもちいた。イオン源を負に荷電したネガティブモードにおいては、ABA標準物質の質量電荷比(m/z) 263.1286の分子イオン(ABA-[H+])から、m/z 219.1392、204.1157、201.1286、153.0923などのフラグメントイオンが生成された。これに対し、重水素標識したd6-ABAからは、m/z 269.1658の分子イオンに対し、m/z 225.1786、210.1533、207.1345、159.1299などの対応するフラグメントイオンが検出された。また、100 pg/µlのd6-ABAに対し、0.3-1,000 pg/µlの標準ABA存在下で、MS/MSによる上記のフラグメントイオンの相対強度比に直線性が認められ、計算上約1 nM程度の生理的な濃度のABAが定量可能であると考えられた。そこで比較的大きな孔辺細胞を持つソラマメを実験材料に用い、孔辺細胞を比較的多く含む葉の裏側の表皮層を剥がし、スライドグラスに両面テープで固定後、実体顕微鏡下で先端径1 µmのナノスプレーチップを孔辺細胞に挿入し、内容物を分取することに成功した。ナノスプレーチップにイオン化溶媒としての80%メタノールと同時にd6-ABAを内部標準物質として加え、質量分析をおこなった結果、ABA標準物質から得られるフラグメントイオンとm/zがほぼ一致する内生ABA由来と考えられるピークが検出された。
2: おおむね順調に進展している
25年度の成果としてまだソラマメ孔辺細胞内のABAの定量的な解析ができる段階に到達していないが、定性は可能なところまで来ている。また、環境応答時に増加するジャスモン酸についてはかなり正確な測定が可能になってきていることも大きな成果である。おり、今年度はジャスモン酸、オーキシンも含め、植物材料と狙う細胞を絞り込むことで今年度の目標を達成できると考えている。
25年度の成果として細胞内のABAの定量的な解析ができる段階に到達していないが、定性は可能なところまで来ている。また、ジャスモン酸についてはかなり正確なMS分析ができており、今後はジャスモン酸、オーキシンなど、他のホルモンも対象として広げ、生理現象との相関で変動する細胞に焦点をあてて研究を進めることが求められる。一方、これまでは大阪の理研のオービトラップMS-MSを使用するため、植物材料を東京からその都度運搬するなどの問題が大きかったが、今年度、理研鶴見に同じ装置が入ったことから、実験量が大きく増加するため、様々な条件検討も含めた研究推進が期待できる。
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Plant J.
巻: 77 ページ: 352-366
10.1111/tpj.12399
巻: 77 ページ: in press