研究領域 | 新海洋像:その機能と持続的利用 |
研究課題/領域番号 |
25121509
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 独立行政法人水産総合研究センター |
研究代表者 |
金治 佑 独立行政法人水産総合研究センター, その他部局等, 研究員 (10455503)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 小型ハクジラ / 北太平洋 / 目視調査 / コビレゴンドウ / 多変量解析 / ハビタットモデル |
研究概要 |
1983年以降北太平洋の大部分をカバーして行われてきた鯨類目視調査から得たデータを用い、小型ハクジラ類16種の生息域の海洋物理環境を特定した。これを基に、鯨種間の分布の差異を海洋環境との関係から説明するとともに、ハビタットモデルを用いた解析を行い、各鯨種の空間分布を北太平洋の広域で推定した。 長期目視データから小型ハクジラ16種の発見位置を抽出し、それに対応する表層~200m層水温・塩分、水深(以下、海洋環境データ)を対応させた。さらに北太平洋に複数存在する、水温・塩分フロントの指標値と小型ハクジラ16種の発見位置の海洋環境データを照合することで、種分布域を次の9グループに分類した。1)亜熱帯性種:ユメゴンドウ、カズハゴンドウ、サラワクイルカ、シワハイルカ、オキゴンドウ、マダライルカ、2)熱帯-亜熱帯性種:ハシナガイルカ、3)移行帯性種:マイルカ、4)亜熱帯-移行帯性種:スジイルカ、5)亜熱帯-混合領域性種:コビレゴンドウ、ハンドウイルカ、ハナゴンドウ、6)移行領域性種:カマイルカ、セミイルカ、7)亜寒帯性種:イシイルカ、8)移行領域-亜寒帯性種:シャチ。これら種間での分布環境の差異は、正準判別分析と多次元尺度構成法による統計的分類からも、客観的に支持された。 さらに一部の種を対象にハビタットモデルの予備解析を行った。推定された空間分布のうち南方型コビレゴンドウでは亜熱帯循環域に分布の中心があり、日本近海では黒潮流路との関係が示唆された。マイルカ、南方型コビレゴンドウ、カマイルカ、セミイルカ、イシイルカについて、複数のハビタットモデルから得られた空間分布推定結果を比較したところ、もっとも精度高く推定できたモデルは種によって異なっていた。 以上の結果から、本年度は小型ハクジラ類の分布特性から海洋区系の提案を行い、その客観的評価を統計的分類と空間分布推定から行うことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在、地球上には約85種の鯨類が生息し、それらの生息域を熱帯・亜熱帯性種、亜寒帯性種など古典的な海洋区系に基づき分類してきた。しかし、こうした旧来の大雑把な区分では、鯨類の分布特性を海洋物理環境や物質循環、生態系構造と関連づけて詳細に把握することは困難であった。本研究では、小型ハクジラ16種の発見位置の海洋環境を特定するとともに、北太平洋に複数存在する水温・塩分フロントとして、黒潮、亜熱帯前線、亜寒帯境界、亜寒帯前線、親潮の指標水温を比較した。その結果、これら16種は9つのグループに分類され、これは各種フロントによって分けられる水塊構造が鯨類の分布特性に密接に関係することを示すばかりでなく、北太平洋にある複数の生態系のサブシステムが小型ハクジラ類の種構成の違いによって代表できることを示唆している。これによって、初期の目的である、鯨類の分布特性による海洋区系の提案が予定通り達成できた。 さらに、正準判別分析と多次元尺度構成法による統計的分類では、各種フロントの指標値による分類と同様の結果となった。ハビタットモデルを一部の種に適用した結果からは、鯨種ごとに空間分布が詳細に把握できた。種分布域内にあっても分布密度は一様でなく、海域の生産構造や餌の分布にも関連するものと考えられる。本研究による分類が妥当であるか、統計学的、生物学的にも検証を進めることができた点でも順調に研究が進捗した。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画のうち、1.モデルインプットデータの整備と2.多変量解析による分布様式の差異把握については予定通り進捗し、概ね作業を終了した。3.ハビタットモデルによる分布域推定では一部の種を対象に予備解析を行ったが、モデル比較や精度評価についてはまだ検証が不十分である。そこで、複数モデルによる推定結果をROC(Receiver Operating Characteristic)やBoyce Indexにより精度評価する。ROCはクジラが発見されたグリッドセルのうち、閾値以上の比率(真陽性率)と発見されなかったセルのうち閾値以上の比率(偽陽性率)を閾値を0から1の間で変化させながらプロットする曲線である。このROC曲線の下側面積(AUC)が1に近いほど精度高いと判断する。Boyce Indexは、鯨が発見されたセルはより高い分布確率が推定されると仮定し、鯨が発見されたセルの相対頻度と分布確率のランクの相関で推定精度を比較する。これらの結果がまとまった段階で4.海洋区系と鯨類の関係の検証を行う。小型ハクジラ類は高次栄養段階に位置するため、生息海域の物理環境のみならず、生産構造や食物網構造、それらの時空間的変動といった様々な要因から、直接・間接の影響を受ける。このため、海洋区系と鯨類の関係の検証にはその中間に介在する要因にも着目した理解・解釈が必要となる。そこでまず、小型ハクジラ類の生理特性や餌生物分布との関連、進化分類学的側面などを過去の文献からレビューし、小型ハクジラ類の分布特性の生態学的解釈を進める。同時に研究項目03の計画研究班7で扱う魚類・頭足類等、他の高次捕食者群集の資源変動メカニズム・群集構造と関連させて、各区系における生態系構造と鯨類の関係を理解する。
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