北太平洋の外洋域に生息する小型ハクジラ類を対象に、種構成の違いや出現確率の変化などの分布特性を、海洋環境との関連で説明し、高次捕食者からみた新たな海洋区系を提案することを本課題の目的としている。初年度の研究結果から、小型ハクジラ類の地理分布は海流や各種フロントを境界として分けられ、北太平洋に複数存在する生態系のサブシステムが小型ハクジラ類の種構成の違いによって代表できることが示された。一方で、同一の海域に分布する種であっても、利用する餌の違いや種間関係によって、生息地の利用様式は必ずしも同一ではない。また分布域内においても、個々の種の出現確率は一定ではなく、空間的な分布パターンについて、さらに詳細な検討が必要である。そこで、今年度は出現確率と物理環境の関係を統計モデルで表現したハビタットモデルを構築し、小型ハクジラの種ごとの空間分布を推定することで、生息地としての区系利用様式について検討した。 昨年度の成果に基づき、北太平洋の各区系を代表する種を選んで、生態的ニッチ因子分析(ENFA)、最大エントロピー法(MaxEnt)、一般化線形モデル(GLM)による空間分布の推定を行った。イシイルカ(亜寒帯性)、カマイルカ(移行領域性)、セミイルカ(移行領域性)、マイルカ(移行帯性)、南方型コビレゴンドウ(亜熱帯性)、マダライルカ(亜熱帯性)、オキゴンドウ(亜熱帯性)、ハシナガイルカ(熱帯・亜熱帯性)に対してハビタットモデルを適用した結果、推定された空間分布は、それぞれの種が各海洋区系に対応することを裏付ける結果となった。また亜熱帯域に生息する種では、沿岸から沖合に広く分布する種と沿岸を中心に分布する種がみられた。高緯度域に生息する種と低緯度域に生息する種では、海域生産性に関する変数と水温の相対的貢献度に違いが見られ、海洋区系の利用様式に違いがあることが示唆された。
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