研究領域 | 細胞シグナリング複合体によるシグナル検知・伝達・応答の構造的基礎 |
研究課題/領域番号 |
25121704
|
研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
|
研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
海野 昌喜 茨城大学, 理工学研究科, 教授 (10359549)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | シトルリン / 毛髪 / 脱イミノ化 / 構造変化 / アイソザイム / 基質特異性 / PAD |
研究概要 |
Peptidylarginine deiminase (PAD)は、Ca2+存在下で、基質蛋白質中のアルギニン残基をシトルリンに変換する酵素である。毛髪キューティクルでは、Ca2+結合蛋白質S100A3がシトルリン化されており、その翻訳後修飾反応は、毛髪内に発現するPAD1~PAD3の三種類のアイソザイムが担っていると考えられる。PAD1, PAD2は、S100A3の4つのアルギニン全てをシトルリン化するが、PAD3は、Arg51のみを特異的にシトルリン化するという特徴がある。本研究の目的は、その基質特異性の違いを構造から解明することである。 昨年までにPAD1, PAD3の結晶構造解析を行い、両者とも結晶の非対称単位中に二分子存在することが分かった。PAD1に関しては、結晶の非対称単位の取り方により、二分子の相対配置が二通り考えられ、一義的には決まっていない。PAD1とPAD3の単量体構造は類似していたが、二量体として見ると全体構造は大きく異なっていた。ゲル濾過クロマトグラフィーによる分子量分析、活性測定、静的光散乱、X線小角散乱(SAXS)の結果から、PAD3の溶液構造は、結晶構造とよく一致した二量体であることが明らかになった。一方、PAD1とPAD2は、凝集しやすい不安定な状態であることがわかり、溶液中の構造は現時点で決定できていない。また、最近になり、PAD2の結晶も得ることに成功した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の本来の目的は、基質特異性やその際の構造変換機構を原子レベルで解明することである。PAD3とS100A3の複合体のX線結晶構造解析を行うことが、大きな目標の一つであるが、現在複合体の構造解析はできていない。その準備段階として、まず、PAD3変異体とアルギニン誘導体の複合体の構造解析、あるいは、野生型PAD3と阻害剤の複合体の構造解析を行おうと試みているが、現在のところ、複合体結晶が得られていない。PAD3単独の結晶は、野生型も変異体も得られているが、ソーキング法においても、今日結晶化法においても複合体構造を見るに至っていない。 また、基質特異性を解明するためにもPAD1, PAD2の構造解析を行おうと試みている最中だが、両者ともPAD3に比較して、沈殿しやすく、X線小角散乱による溶液構造解析さえうまくいっていない。PAD1については、低分解能のX線結晶構造解析ができたが、PAD2についてはまだ回折強度データが収集できていない状態である。PAD1のダイマー構造が、PAD3とは著しく違っていたのが、結晶中の分子パッキングの影響なのかどうかを確認するためにも、溶液構造をぜひ成功させる必要がある。 その意味で、当初の予定より、やや遅れているのは否めない。ただし、着実に成果を出しつつ、最終目標に向かって前進はしている。
|
今後の研究の推進方策 |
まず、PAD1, PAD2を安定的に得る条件を確立することが喫緊の課題である。そのためには、リアルタイムPCRの装置を活用して、温度上昇にできるだけ耐えうる緩衝液条件を検討する。現在使用している緩衝液よりもできるだけ安定でいる条件を探し、それが達成されれば、PAD1, PAD2の溶液構造をX線小角散乱法により、決定する。また、並行して、PAD2の結晶化条件を探索し、より質の良い結晶を得ることを目指す。今までに、最高4Å程度の回折点を得ているので、その条件周辺の条件と、スクリーニングによるまったく別の条件の検討を行いたい。良質な結晶が得られれば、Photon Factory(つくば)やSPring-8(播磨)の大型放射光施設でできるだけ高分解能回折データを収集する。構造はPAD4, PAD3などをモデルとした分子置換法で得る。 また、PAD3の基質結合型の構造解析は、基質濃度条件の検討と、ソーキング法、共結晶化法の両方を行い、条件を詰めていく。アルギニン誘導体や阻害剤との複合体構造解析ができれば、S100A3のR51周辺アミノ酸を基に化学合成した短いペプチドとの複合体結晶の作成に取り掛かる。
|