研究実績の概要 |
本研究では、X 線結晶構造解析と極低温電子線トモグラフィー法による構造解析を組み合わせることで、フック完成シグナルに伴う輸送装置の基質認識モード切り替え機構を原子レベルで解明することを目指している。本年度の主な成果は以下に示す。 1.FlhAC(F459A)およびFlhAC(T490M)の結晶構造の精密化を行い、野生型FlhACの構造と比較した結果、野生型FlhAC はsemi-closed 構造をとっていたのに対し、FlhAC(F459A)およびFlhAC(T490M)はOpen構造をとっていることが判明した。さらに、FlhAcとそのN末膜貫通領域とをつなぐリンカーが伸びている向きがsemi-closed 構造とopen構造の間で異なっていることが明らかとなった。 2.比較的安定なFlgN/FlgK/FlhAc/FliJ複合体を単離精製することができた。 3.サルモネラ由来のFlgNの結晶構造から、細菌の間で高く保存されているAsp-92, Asp-95, Ile-103がα3ヘリックスの同一面上に存在していた。そこで、これらのアミノ酸残基をアラニンに置換すると、FlgKに対する結合親和性が顕著に低下した。これら3残基を同時にアラニンに置換すると、FlgKに全く結合できなくなった。このことから、Asp-92, Asp-95, Ile-103がFlgKとの相互作用に直接関与していることが示唆された。さらに、FlgNのα1ヘリックスとα2ヘリックスの間に位置するループ構造がFlgNの輸送シャペロン活性を制御する構造スイッチとして働いていることが明らかとなった。 4.サルモネラからべん毛蛋白質輸送活性を示す反転小胞膜の調製に成功した。クライオ電子線トモグラフィー法によりべん毛基部体MS-Cリング複合体の内部に輸送装置が存在することが確認できた。
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