研究領域 | 細胞シグナリング複合体によるシグナル検知・伝達・応答の構造的基礎 |
研究課題/領域番号 |
25121724
|
研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
|
研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
伊東 広 奈良先端科学技術大学院大学, バイオサイエンス研究科, 教授 (10183005)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | シグナル伝達 / Gタンパク質 |
研究概要 |
実績概要 800字以内 Gタンパク質を介したシグナル伝達系の構成因子を標的とした薬剤が広く使用されており、そのシグナルの調節機構の解明は新たな薬剤の開発と密接に結びついている。本研究はGタンパク質シグナルを制御する新たな複合体の解析を目的としている。本年度の成果は以下の通りである。(1)リガンド不明のオーファンGPCRの一つであるGPR56に対するモノクローナル抗体を作成し、いくつかのモノクローナル抗体がヒトグリア腫細胞U87-MGの膜表面GPR56を認識し、抗体が受容体と結合することで受容体のインターナリゼーションを促進することを見出した。一方、結合はするが細胞遊走阻害を示さない抗体ではインターナリゼーションの促進効果は見られなかった。(2)アゴニスト様作用を示す抗体は細胞内カルシウム濃度の上昇を引き起こすとともに、GPR56の細胞外ドメイン(ECD)と膜貫通ドメイン(TM)の相互作用を強めることが免疫沈降実験より明らかとなった。(3)GPR56と同じadhesion GPCRファミリーに属するLatrophilin1のECDがGPR56のTMと複合体を形成するとともにGPR56-TMによる遺伝子発現を抑制することが先の研究で判明しているが、実際にマウスの胎児、新生児のGABA抑制性ニューロンでLatrophilin1-ECDとGPR56-TMが共発現していることが組織切片および初代培養神経細胞の免疫染色より明らかとなった。(4)ショウジョウバエの非受容体型Gタンパク質調節因子Ric-8が哺乳動物Gタンパク質G12/13のαサブユニット相同遺伝子の一つCtaの膜への局在化を促進することが判明した。(5)哺乳動物細胞内でユビキチン化されるGsα及びGsαと特異的に結合してユビキチン化を阻害するRic-8Bのそれぞれと相互作用する候補分子をプロテオーム解析から同定した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ゲノム上1000種類近くあるGPCRの中で新しく見出されたadhesion GPCRは、その発現や生理機能が不明の部分が多く、また多くのものがリガンドが不明なオーファン受容体である。本研究室では神経前駆細胞に特異的に発現し大脳皮質形成異常に関連するGPR56の研究を進めてきた。抗GPR56ポリクローナル抗体が神経前駆細胞の遊走をG12/Rho経路を介して抑制することを先に明らかにした。このように抗adhesion GPCR-ECD抗体がアゴニスト様に作用すること、またある種のがん細胞ではGPR56が高発現していることから、がん細胞におけるGPR56の機能を明らかにする目的でヒトGPR56-ECDを抗原としてモノクローナル抗体の作成を試み、いくつかがん細胞の遊走を阻害する抗体を得ることができた。現在、それらの抗体を用いて詳細にGPR56活性調節機構を調べており、着実にアゴニスト様抗体と受容体との複合体の構造と機能が明らかになりつつある。一方、Gタンパク質αサブユニットと結合する分子として私共の研究室で同定したRic-8に関しても哺乳動物細胞のRic-8みならずショウジョウバエの原腸陥入に異常をきたすRic-8変異体を用いた多面的な解析を進めており、受容体とは異なる新たなGタンパク質シグナル調節機構の詳細が明らかになりつつある。
|
今後の研究の推進方策 |
アゴニスト様に働く抗ヒトGPR56モノクローナル抗体のエピトープを決めるために各種GPR56変異体を作成し、その結合領域をしぼりつつあるので、さらに個々の抗体のエピトープの決定作業を進める。また、モノクローナル抗体とGPR56ECDとの複合体の構造を解き明かすためにそれぞれのリコンビナントタンパク質を調製し、結晶化とX線結晶構造解析を試みる。また、受容体が抗体により活性化された際にユビキチン化や受容体の断片化などが起こるか解析し、受容体の細胞応答を引き起こす実体と細胞内の場所を検討する。Ric-8に関してはGタンパク質αサブユニットの脂質修飾に及ぼす効果を野生型と原腸陥入不全変異体などを用いて検討する。また、Ric-8と相互作用する候補分子をRic-8の過剰発現とRic-8との共免疫沈降物のMass解析から検索し、Gαのユビキチン化および脂質修飾に関連する分子複合体の実体を明らかにする。
|