Gタンパク質を介するシグナル伝達は多細胞生物の発生過程、恒常性維持において極めて大事な役割を果たしており、そのシグナル伝達機構の異常は、組織形成不全や種々の疾患の原因となる。多細胞生物への進化の過程で新たなGタンパク質制御因子として登場したAdhesion GPCRとRic-8の構造と機能の解析を進め、以下の成果が得られた。1.Adehesion GPCRの一つでリガンド不明のオーファン受容体GPR56に対するモノクローナル抗体を作成して、その中からヒトグリオーマ細胞の遊走を阻害する抗体を選別した。その抗体とGPR56の複合体の結晶化や、マウスへの癌細胞移植への作用を検討するため、抗体の大量調製およびリコンビナント抗体の作成を試みた。その結果、一つの抗体に関してマウス腹腔へのハイブリドーマ移植によるmg単位の抗体作成、またいくつかの機能性抗体の重鎖、軽鎖のcDNAの単離と組換え体抗体の発現プラスミドの作成に成功した。2.同じくAdhesion GPCRに属するLatrophilin1(LPHN1)に対するモノクローナル抗体の作成を試み、マウスLPHN1を認識するラットモノクローナル抗体を得ることが出来た。3.LPHN1の細胞外ドメインのみを発現させた細胞では、そのリガンドであるLatrotoxin(LTX)によるカルシウム応答は見られなかったが、GPR56の細胞外ドメインを欠失した変異体と共発現させると全長のLPHN1と同様に、LTX1依存性のカルシウム応答が観察された。このことは異種Adhesion GPCR間で複合体が形成され、機能することを示すものである。4.ショウジョウバエのRic-8が哺乳動物G12/13ホモログであるCtaのパルミトイル化を促進することをClick Chemistry法を用いて明らかにした。
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