研究概要 |
Mad2L2は,「DNA修復」,「転写」,「細胞周期」に関わるタンパク質である. 「DNA修復」において, Mad2L2は誤りがちなDNAポリメラーゼであるREV1およびREV3と複合体を作りDNA損傷による複製停止を回避する. 「転写」では,転写因子TCF4と複合体を作り, E-カドヘリンの発現を促進する. 「細胞周期」のM期からM/G1期にかけて, Mad2L2は様々なタンパク質と相互作用し, 細胞周期を制御する. また, 赤痢菌のIpaBはMad2L2と結合し, Mad2L2の阻害複合体を形成し, 宿主の細胞周期を変調させる. Mad2L2シグナリング複合体の構造機能相関は不明な点が多く, 構造解析が求められている. 本研究では, Mad2L2複合体の構造解析によって, Mad2L2が機能する現場を捕らえ, タンパク質間相互作用と細胞内シグナルの制御機構を明らかにする. H25年度はMad2L2と赤痢菌由来のIpaBとの複合体の調製, 結晶化, X線回折実験を行い, 3.1オングストローム分解能の回折データを集積した. 今後はセレノメチオニンを利用した構造解析を進め, Mad2L2による複合体形成とシグナリング機構を解明する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Mad2L2-IpaB複合体の精製条件の検討を含めた結晶化条件の改良とX線回折実験を行い, 3.1オングストローム分解能の回折データを収集できた. また, 実験的な位相決定のため, 重原子同型置換結晶の調製やセレノメチオニン標識タンパク質の調製を進めた. その結果, メチオニン要求大腸菌を用いてセレノメチオニン標識タンパク質の調製に成功している. また, Mad2L2-CAMP複合体の調製も進めている.
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今後の研究の推進方策 |
H26年度はMad2L2-IpaB複合体とMad2L2-CAMP複合体の構造機能解析を進める. 1) Ma2L2-IpaB複合体 H25年度は結晶化条件の検討と放射光を利用したX線回折実験によって, 結晶化条件の最適化を行うことが出来た. その結果, 3.1オングストローム分解能の回折強度データを収集することに成功した. しかし既知構造をモデル分子とした分子置換法では構造解析に至らなかった. そこで, 重原子同型置換法による構造解析を試みたが有効な重原子誘導体結晶を作製することが出来なかった. したがって, 現在ではセレノメチオニンを利用した構造解析を進めている. H26年度はセレノメチオニンで標識したMad2L2-IpaBを調製し, 異常分散効果を利用した構造解析によってMad2L2-IpaBの立体構造を解明する. さらに変異体実験から相互作用メカニズムを解明する. 2) Mad2L2-CAMP複合体 これまでに, 大腸菌の発現系を用いた組換えタンパク質の調製を試みたが, CAMPの発現量が低く, 目的タンパク質を得ることが出来なかった. そこでH26年度は大腸菌のコドンに最適化したCAMP遺伝子を用いて, Mad2L2-CAMP複合体の調製を行い, X線結晶構造解析を進める. 具体的には, Mad2L2-IpaB複合体の系を参考に, Novagen社のpET-DuetベクターにMad2L2遺伝子と最適化したCAMP遺伝子を導入し, 共発現によってMad2L2-CAMP複合体を得る. 精製および結晶化はMad2L2-IpaBと同様な戦略で進め, X線結晶構造解析を目指す.
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