研究実績の概要 |
Mad2L2-IpaB複合体 Mad2L2は,細胞周期のG2/M期からM期にかけてユビキチンリガーゼAPCCdh1に結合しAPCCdh1の活性を阻害している.赤痢菌の産生するIpaBはMad2L2と結合することで,Mad2L2のAPCCdh1を阻害する機能を阻害し,APCCdh1は活性化する. APCCdh1の活性化によって細胞周期が遅延し,赤痢菌は効率的に腸管上皮細胞に感染する.IpaBはMad2L2との相互作用に重要であると考えられているプロリンがアラニンに変異している.そこで,IpaBとの相互作用機構を明らかにするために,Mad2L2-IpaB複合体のX線結晶構造解析を行った.複合体を安定に得る調製法を確立し,X線結晶構造解析に適した結晶を得た.つくばフォトンファクトリーBL-1Aにおいて低エネルギーX線を用いたデータ測定を行い,SAD法によって電子密度を得た.しかし,IpaBのコイルドコイル構造に相当する電子密度は確認出来たものの,Mad2L2の明瞭な電子密度は確認出来なかった.一方,すでに構造解析に成功しているMad2L2-REV3複合体において,Mad2L2との相互作用に重要なREV3のプロリンをアラニンに変異させ, IpaBを模倣した複合体のX線結晶構造解析を行った.その結果,プロリンの変異によって生じた空間を水分子が占有し,水素結合ネットワークを形成することで複合体形成に寄与していた.この結果から,Mad2L2-IpaB複合体においても同様な水分子を介した相互作用が形成されていることが予想された. Polκ-REV1-Mad2L2-REV3複合体 Mad2L2はDNA修復において損傷乗り越えDNA合成(TLS)に関わる.TLSは誤りがちなDNAポリメラーゼによる損傷塩基を鋳型としたDNA合成であり,DNA損傷による複製停止を回避する手段である.今回、Mad2L2と3つの誤りがちなDNAポリメラーゼ(REV1,REV3,Polκ)との4者複合体の構造解析を行い、Mad2L2がTLSで中心となるアダプタータンパク質として機能する現場を捉えた.
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