セマフォリンは軸索ガイダンス因子として発見された蛋白質であり、細胞表面受容体であるプレキシンと相互作用することでシグナルを伝達する。広範な研究から、セマフォリンとプレキシンによるシグナル伝達は、神経発生のみならず、免疫応答や器官形成など、様々な生命現象に関わっており、その異常はがんなどの疾患にもつながることが知られている。ヒトでは、計20種のセマフォリンと9種のプレキシンが存在するが、結合選択性は厳密に規定されており、その組み合わせによって生命現象特異的なシグナルが伝達される。興味深いことに、セマフォリンとプレキシンは、配列が相同なセマドメインと呼ばれる領域を有しており、互いのセマドメインを介して結合する。プレキシンは、計8個または10個のモジュールからなる巨大な細胞外領域を有しており、細胞質側にはGAPドメインが存在する。細胞外におけるセマフォリンとの相互作用は、プレキシンのGAPドメインの活性化を引き起こすが、その詳細な分子機構は不明のままである。また、セマフォリンとプレキシンの結合選択性についても十分な説明はなされていない。そこで、本研究では、プレキシン細胞外領域の構造解析と構造未知のセマフォリン・プレキシンのペアの構造解析に取り組んだ。 プレキシン細胞外領域の構造解析については、長鎖の断片について結晶が得られたが、原子レベルの分解能に達しなかったため、結晶性の改善に向けて糖鎖の除去に取り組んだ。糖鎖を3箇所まで変異で取り除いたものについては、大量発現と精製にも取り組んだ。 構造未知のセマフォリン・プレキシンのペアについては、それぞれ単独の構造決定に成功し、複合体の結晶も得られた。現状では、分解能が不十分であるため、複合体については精密構造の決定には至っていないが、結晶内での2分子の配置はすでに決定されており、結合選択性の議論を行うための情報は取得できた。
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