研究領域 | 細胞シグナリング複合体によるシグナル検知・伝達・応答の構造的基礎 |
研究課題/領域番号 |
25121736
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 国立遺伝学研究所 |
研究代表者 |
伊藤 啓 国立遺伝学研究所, 構造遺伝学研究センター, 助教 (10390626)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | DNA複製開始因子 / Sld3/Treslin / X線結晶構造解析 |
研究概要 |
本研究では、DNA複製複合体の中核となる活性型ヘリケースを細胞周期に連動して形成する過程で不可欠な因子である出芽酵母の複製開始因子Sld3に着目した構造生物学的解析を進めている。活性型ヘリケースの必須構成因子Cdc45の複製開始点への付加に不可欠な「Sld3-Cdc45複合体」、複製開始点から双方向へ正しく複製フォークを進行させるために複製開始点において2分子のヘリケースを同時に活性化させる仕組みと密接に関係すると想定されている「Sld3-Sld7複合体」に着目し、それぞれにおいてSld3が果たす役割の解明に必要な構造学的基盤を構築する事を目的としている。 本年度は、酵母Sld3とその機能的ホモログである脊椎動物Treslinに共通して保存された領域(Sld3/Treslin domain)が、Cdc45との結合に必要かつ充分である事を見いだし、かつその結晶構造を明らかとした。立体構造に基づいて行った生化学、変異実験から得られた結果と併せて、Sld3-Cdc45複合体のモデルを提案した(Structure誌に論文を投稿。現在revision中)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
活性型ヘリケースの必須構成因子Cdc45は、DNA上の複製開始点上に結合したヘリケースコア複合体にSld3との複合体として付加される事が知られていたが、そのメカニズムの一切はこれまで不明であった。我々はSld3のCdc45結合領域を同定し、その立体構造を明らかとした。得られた知見に基づく変異実験、生化学実験を行う事で、Sld3とCdc45との相互作用モデルを提案できるに至った(論文投稿中)。Cdc45のヘリケースコア複合体への付加は真核生物のDNA複製調節において必須かつ普遍的なイベントである。本成果は、その重要なプロセスについての理解を、分子構造に立脚した分子間相互作用のレベルでの理解へと推し進めた。得られている結合モデル実験的に証明するため、現在Sld3-Cdc45複合体の結晶化に向けた作業を進めており、大腸菌をホストとする系で目的複合体の大量調製プロトコルを確立している。 今年度はその他、Sld3とSld7が形成する高次構造を明らかとするために、Sld3-Sld7ヘテロ2量体領域からなる複合体の大量調製プロトコルを確立した。また、Sld7のホモ2量体化ドメインを生化学的に同定し、そのタンパク質結晶を得る事にも成功している。これらのことから、研究全体として計画通りに進んでいると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
酵母からヒトまで真核生物に広く保存され、細胞周期に連動してDNA複製開始複合体を適切に構築する上でハブとして機能する事が示されているSld3に注目し、本因子が形成する複合体が持つ構造と機能の相関を明らかとする。真核DNA複製開始の調節機構については、これまで遺伝学的、生化学的手法が主として用いられ、必要となる因子の同定が進められてきた。本研究では、そこから更に立体構造に立脚した分子機構のレベルへと理解を深める事を目指している。 前述の通り、Sld3のCdc45結合ドメインの他、Sld7の2量体化ドメインの同定と結晶化に成功しており、またSld3-Cdc45, Sld3-Sld7複合体についても、結晶化実験に向けたタンパク質複合体の大量調製系を構築済みである。既にタンパク質結晶を得ているSld7については、速やかにその結晶構造を明らかとし、他の複合体についても早期に結晶が得られる様、条件検討実験を進める予定である。立体構造から得られる情報を基に、適切な生化学的、遺伝学的解析を行う事で、研究目標の達成を図る計画である。
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