研究領域 | 細胞シグナリング複合体によるシグナル検知・伝達・応答の構造的基礎 |
研究課題/領域番号 |
25121738
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
長江 雅倫 独立行政法人理化学研究所, 糖鎖構造生物学研究チーム, 研究員 (60619873)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 結晶構造解析 / 細胞内輸送 / GPIアンカー型蛋白質 |
研究概要 |
GPIアンカー型蛋白質は脂質修飾蛋白質の一種で、可溶性蛋白質が糖脂質であるGPIに繋留(アンカー)されるためにこのように呼ばれている。p24ファミリー複合体は、酵母からヒトまで保存された四種類のI型膜貫通蛋白質から構成される蛋白質複合体で、小胞体-ゴルジ体内腔に豊富に存在する。p24ファミリー複合体は、GPIアンカー型蛋白質などの脂質修飾蛋白質に対する特異的な積み荷受容体として、小胞体からゴルジ体への細胞内輸送を担っているが、構造生物学的研究は皆無であり、その全体構造や輸送メカニズムに関する原子レベルの知見は一切得られていない。このため本申請課題は、p24ファミリー複合体が小胞体-ゴルジ体間でどのように形成され、積み荷であるGPIアンカー型蛋白質をどのように輸送するのかについてそれぞれ原子レベルの描像を世界に先駆けて明らかにすることを目的としている。このため、以下の二つの課題に取り組む。 1)p24ファミリー複合体の構成要素単独およびヘテロ複合体の構造解析を通して、複合体の全体構造を明らかにする。 2)p24ファミリー複合体とGPIアンカーとの相互作用解析および構造解析を通して、輸送メカニズムを原子レベルで明らかにする。 平成25年度は、このうち研究項目1を重点的に行った。p24蛋白質は、I型膜貫通蛋白質であるが内膜側にGOLDドメイン、コイルドコイル領域がある。このうちGOLDドメインはすべてのp24蛋白質に共通の構造であり、重要な機能が予想されるがその立体構造はわかっていなかった。このため我々は四種類のp24蛋白質のGOLDドメインに対して結晶化実験を行い、三種類の立体構造決定に成功した。今後は研究項目2に対して研究を進める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本申請課題の目的は、p24ファミリー複合体が小胞体-ゴルジ体間でどのように形成され、積み荷であるGPIアンカー型蛋白質をどのように輸送するのかについてそれぞれ原子レベルの描像を世界に先駆けて明らかにすることである。当初の研究計画では以下の二つの課題をあげていた。 1)p24ファミリー複合体の構成要素単独およびヘテロ複合体の構造解析を通して、複合体の全体構造を明らかにすること。 2)p24ファミリー複合体とGPIアンカーとの相互作用解析および構造解析を通して、輸送メカニズムを原子レベルで明らかにすること。 現在までに研究項目1は目的を順調に達成している。当初予定していた四種類の蛋白質のうち、三種類の構造決定に成功している。そのうちの一つは、高エネルギー加速器研究機構の千田教授らのグループと共同で、現在広く注目されている解析法の一つである低エネルギーX線を用いた硫黄原子による位相決定法を用いて構造決定を行った(論文投稿準備中)。この実験はウェブを通じて広く一般に公開するなど、実験ノウハウ提供も積極的に行った。またヘテロ複合体の構造解析に向けてp24蛋白質間の相互作用を表面プラズモン共鳴法および核磁気共鳴法(NMR)を用いて解析した。その結果、サブファミリーに依存した相互作用の同定に成功した(論文投稿準備中)。今後はこれまでの研究で得られた知見を基にしてp24蛋白質のヘテロ複合体の作成に取り組む予定である。また、研究項目2についてはp24蛋白質と有機合成したGPIアンカー型糖鎖との相互作用をNMRによって行った。こちらは残念ながらGPIアンカー型糖鎖との有意な結合が観測されなかった。今後は測定条件や基質などを再検討する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
研究項目1:p24ファミリー複合体の構成要素単独およびヘテロ複合体の構造解析を通して、複合体の全体構造を明らかにする。 平成25年度の研究成果として、三種類のp24蛋白質のGOLDドメインについて構造決定に成功した。また表面プラズモン共鳴法やNMR法によってp24蛋白質間の蛋白質間相互作用について新たなヘテロ複合体の可能性を提唱することができた。これらの成果を踏まえて平成26年度は、p24蛋白質のヘテロ複合体のX線結晶構造解析に取り組む予定である。結晶構造解析には良質な結晶の作成が必要であり、このステップがボトルネックである。仮にヘテロ複合体の結晶化に失敗した場合、NMR法による相互作用部位の同定、変異体蛋白質を用いた生化学的解析を通してヘテロ複合体相互作用の情報を得る予定である。 研究項目2:p24ファミリー複合体とGPIアンカーとの相互作用解析および構造解析を通して、輸送メカニズムを原子レベルで明らかにする。平成25年度はp24蛋白質のGOLDドメインとGPIアンカー型糖鎖との相互作用についてNMR法を用いて検討した。その結果、有意な相互作用は観測できなかった。ごく最近、共同研究者である大阪大学微生物病研究所の木下タロウ教授らのグループがp24蛋白質の一つについてコイルドコイル領域がGPIアンカー型蛋白質の効率的な輸送には不可欠であることを示した(Theiler et al., J.Biol.Chem. in press)。この結果を受けて、コイルドコイル領域の果たす役割を構造生物学的に考察する予定である。仮に構造生物学的な解析が困難である場合、木下教授らのグループと緊密に連携して、構造生物学的な観点を取り入れた細胞生物学的な研究を模索する予定である。
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