病原菌にとって鉄の獲得は、ヒトへの感染増殖に必須である。そのためにヘム鉄を奪取するシステムや、細胞内外のヘムを感知するシステムを有する。本研究では、病原菌でABCファミリーに属するヘムトランスポーターのX線結晶構造解析による作動原理の解明を目指した。また、ヘム鉄を感知する二成分情報伝達系タンパク質が情報伝達を行うメカニズムの解析を行った。 1. ヘムの輸送システムについては、これまでに決定したヘムトランスポーターBhuUVとペリプラズムヘム結合蛋白質BhuTとの複合体やBhuT単独の結晶構造に加えて、H26年度はBhuUVのヌクレオチドフリー型の構造を決定した。BhuUサブユニット内の膜貫通部位で形成されるヘム輸送経路はペリプラズム側が表面のヘリックスによって閉じており、細胞質側に開いた状態を示した。このような特徴は休止状態と考えられるBhuUV-T複合体構造でも観測されており、輸送経路のゲート構造に大きな違いは見られない。反応サイクルでは、観測された内向きの構造からペリプラズム側に輸送経路が開くような構造への変化によってヘムを受け取れる初期状態に戻ることが示唆される。 2. ヘムセンサーはChrSとChrAという2つのタンパク質から構成される。ChrSは膜貫通領域を含むこともあり、上質な結晶の調製が困難で、構造解析に必要な分解能を示す結晶が得られなかった。ChrSからリン酸基シグナルを受け取る下流因子であるChrAについては 高分解能での構造決定に成功した。ChrAはリン酸化ドメインとDNA結合ドメインの2つのドメインから構成される。転写因子機能の活性化にとって重要となるドメインのオリエンテーションとリンカー領域の構造は他のファミリータンパク質には見られないユニークな特徴を示した。構造比較によりChrAの転写活性制御のメカニズムについての構造基盤が明らかとなった。
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