研究領域 | 細胞シグナリング複合体によるシグナル検知・伝達・応答の構造的基礎 |
研究課題/領域番号 |
25121743
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
竹内 恒 独立行政法人産業技術総合研究所, 創薬分子プロファイリング研究センター, 主任研究員 (20581284)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | キナーゼ / 複合体 / 立体構造解析 / X線結晶構造解析 / NMR |
研究概要 |
リン酸基転移酵素 (キナーゼ) は、細胞内シグナル伝達を担う重要な酵素群であり、癌、炎症、糖尿病など多くの病態と密接に関連する。キナーゼは、定常状態おいては制御ドメインなどにより、その活性が抑制される一方、活性化状態においてはATP、Mg2+、基質の立体配置が最適化され、リン酸基転移が効率良く起きる構造へと変化する。すなわちキナーゼは立体的かつ動的に高度に制御されており、そのシグナル伝達活性の解明には、基質等を含む詳細なキナーゼ複合体の立体構造と、定常状態から活性化状態への構造変換、各状態における構造平衡や運動性を捉える動的解析が不可欠となる。 研究代表者はインスリンシグナルを負に制御するリン脂質キナーゼPI5P4K (P78356; Mol Cell Biol. (2004), 24, 5080-7)がGTP を優先的に用いることを見だした。PI5P4KのGTPによる制御機構を立体構造に基づき理解するため、PI5P4K・GMPPNP複合体の立体構造解析に着手し、得られた回折像からGTP結合様式を明らかにすることに成功した。また活性中心を構成すると考えられる複数のループが電子密度を与えず、特にリン酸基周辺の運動性が亢進した状態にあることが分かった。また提唱するGTP認識メカニズムに基づき変異体を作成し、変異体のGTPおよびATP結合能をNMR法により解析するとともに、酵素活性をNMR法で検定し、各残基の活性への寄与を明らかにした。その中で,Thr201, Phe205はGTP結合能を選択的に減少させた。当該変異体を作成し、PI5P4Kノックダウン細胞に対し再導入したとところ、GTP選択性が細胞増殖能に寄与していることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
インスリンシグナルを負に制御するリン脂質キナーゼPI5P4K:GTP複合体の解析を行った結果、良好な回折像を得ることに成功し、PI5P4KがGTP を優先的に用いる機構を世界に先駆けて明らかにすることに成功した。また活性中心を構成すると考えられる複数のループが電子密度を与えず、特にリン酸基周辺の運動性が亢進した状態にあることが分かり、NMRによる解析を試みたが、シグナル強度が低く難航している。しかしながら、また提唱するGTP認識メカニズムに基づき変異体を作成し、変異体のGTPおよびATP結合能をNMR法により解析するとともに、酵素活性をNMR法で検定し、各残基の活性への寄与を明らかにすることが出来た。またその中で,Thr201, Phe205はGTP結合能を選択的に減少させ津特異な性質を有しており、当該残基に変異体を作成し、PI5P4Kノックダウン細胞に対し再導入したとところ、GTP選択性が細胞増殖能に寄与していることが明らかとなった。このことはGTPを用いる特異なキナーゼPI5P4Kの新たな機能を見出したものであり画期的である。
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今後の研究の推進方策 |
p38のドッキング相互作用によるアロステリックな活性制御機構の解明を行う。研究代表者はp38に関して、NMRを用いた基質MK2との相互作用解析を行い、酵素活性部位から離れた位置で基質と結合する“ドッキング相互作用”がATP結合、基質被リン酸化部位の結合、および酵素活性を増強することを見出した。本機構は、ドッキング相互作用をもつ基質に対しp38が優先的に働くことを保障する機構と考えられる。ドッキング相互作用がこれらの反応促進効果を発揮するのは、分子内のアロステリックな構造変化が、ATPおよび基質被リン酸化部位結合サイトに伝播するためである。そこで基質ドッキング配列による活性制御の詳細を明らかにするため、基質結合状態、さらにそこにATPが結合した状態における複合体結晶構造解析を行う。基質複合体の結晶化がうまくいかない場合は、基質発現領域の検討を行うとともに、NMR法による立体構造決定も視野に入れる。また、基質非結合・結合状態間、ATP結合状態・非結合状態間における平衡状態やATP、基質非リン酸化部位結合サイトにおける運動性の変化を、NMRの化学シフト摂動法や運動性解析により明らかにする。その結果を、等温滴定型熱量計(ITC)による熱力学的解析と合わせることで、反応促進が構造平衡の遷移によりどのようにして達成されるのかを明らかにする。
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