リンパ管は血管や神経系と同様にほぼ全ての組織にネットワークを形成しているが、中枢神経組織においては分布していない。その特異的な抑制機構は未解明であるが、神経系からリンパ管への何らかの作用が示唆されている。さらに血管-神経ワイヤリングにおいて重要な役割を果たすVEGFはリンパ管形成を誘導することなどから、リンパ管と血管-神経系の間に相互作用が存在する可能性があるにも関らず、未解明な部分が多く残されている。本研究課題の代表者はこれまでに骨形成因子(BMP)シグナルが血管新生を促進し、リンパ管新生を抑制することを細胞さらに個体レベルで明らかにした。そこで本研究課題においてはこれまでの研究成果を発展させる形でリンパ管と血管・神経系との間の相互作用を司る分子機構の解明を目指した。具体的には、リンパ管の形成におけるTGF-βファミリーシグナルの役割の検討を行った。BMPと同じファミリーに属するTGF-βがBMP-9と同様にリンパ管内皮細胞の増殖ならびに運動能を著しく抑制することを見出した。この分子機構としてTGF-βがリンパ管内皮細胞の活性化に重要な役割を果たすProx1転写因子の発現を低下させることを示した。さらに中枢神経系においてTGF-βならびにBMPシグナルが活性化していることが明らかになり、中枢神経においてリンパ管が存在しない機序の一端を担っていることが示唆された。リンパ管は血管と協調して体液の恒常性維持において重要な役割を果たしており、リンパ浮腫や癌のリンパ節転移などの病態に関与していることから、本研究課題により明らかとなった新たなリンパ管形成抑制機構は発生生物学などの基礎生物学上のみならず、癌治療などを目指した臨床医学に大きなインパクトを与えることが期待される。
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