研究領域 | 血管ー神経ワイヤリングにおける相互依存性の成立機構 |
研究課題/領域番号 |
25122712
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
中原 努 北里大学, 薬学部, 准教授 (10296519)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 薬理学 / 網膜血管 / 神経節細胞 / 血管生物学 |
研究概要 |
本研究は、後天性失明や視力低下の原因として大きな割合を占める緑内障と糖尿病網膜症の新規予防・治療戦略を提案するために、網膜における血管―神経相互依存性破綻モデルを用いた薬効評価系を確立して、血管―神経相互依存性破綻の予防法・回復法を見出すことを目的としている。本年度は、次のような成果を得た。 1. 新生仔期ラットにストレプトゾトシンを単回投与し 1 型糖尿病を発症させて 2~8 週間後に、糖尿病の網膜神経と網膜血管に与える影響ついて検討を行った。その結果、糖尿病の期間が 4 週間を超えると神経傷害が認められないものの毛細血管が脱落し始め、その血管傷害の程度は糖尿病期間に依存して大きくなることが示された。これまでに、NMDA を硝子体内に投与すると網膜神経が網膜血管に先行して傷害されることを明らかにしているが(神経障害先行型破綻モデル)、糖尿病の場合は血管障害が先行する破綻モデル(血管障害先行型破綻モデル)であることが示された。前述の 1 型糖尿病モデルラットの硝子体内に NMDA を投与した後に観察される神経と血管傷害の程度について検討を行ったが、対照ラットに NMDA を投与した場合以上に神経と血管が傷害されることは観察されなかった。 2. これまでに網膜循環改善作用を有するβ3-アドレナリン受容体(β3-AR)刺激薬に NMDA 誘発網膜神経傷害を抑制する作用があることから、β3-AR 刺激を介する網膜血流量の増加が網膜神経の生存を促している可能性を示唆してきたが、β3-ARの網膜内分布は不明であった。β3-AR mRNA の網膜内分布をラット網膜 whole-mount in situ hybridization により検討し、網膜中心動脈に β3-AR mRNA が発現していることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.「血管―神経相互依存性破綻モデルを用いた薬効評価系の確立」については、糖尿病が血管障害先行型の血管―神経相互依存性破綻を引き起こす可能性が明らかになった。そして、糖尿病時に観察される血管―神経相互依存の破綻様式の解析が進んだ。 2.「血管―神経相互依存性破綻の予防法・回復法」に関しては、β3-AR が網膜中心動脈において発現していることを示せたことから、β3-AR 刺激薬の作用点が明らかになった。またこの結果は、網膜血管に作用し拡張作用を示す網膜循環改善薬が血管―神経相互依存性破綻の予防薬となり得る可能性をより一層高めることに繋がった。β3-AR mRNA の whole-mount in situ hybridization を行うための準備(β3-AR cDNA クローニング、プローブ作製)に時間を要したが、神経傷害時ならびに血管傷害時における β3-AR mRNA 発現変化について検討可能となったことは今後の研究推進のために意義深いものであると考えられる。以上のことより、研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
1.網膜における血管―神経相互依存性破綻のメカニズム 網膜における血管と神経の個々の時間的・空間的変化とその変化の分子基盤について、継続して検討を進める。特に、wortmannin 硝子体内投与後の変化、糖尿病発症後の経時変化、それらに対する個体成熟度の影響について、精力的に解析する。 2.網膜における血管―神経相互依存性破綻の予防法・回復法 申請者らが見出してきた網膜循環改善薬 [β3-AR 刺激薬 (CL316243)・EP2 受容体刺激薬 (ONO-AE1-259-01)・PDEIV 阻害薬 (rolipram)]および神経保護薬 [donepezil・cilnidipine] の血管―神経相互依存性破綻に及ぼす影響について、破綻モデルを用いた検討を継続する。
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