毛を作る器官である毛包は、発生過程で神経・血管・筋肉などと正確に接続されることにより、感覚受容、体温調節、威嚇などの高次機能を獲得する。しかし、これら異種組織間の接続を制御する分子機構は殆ど明らかにされていない。本研究では、毛包バルジ領域のわずか上部に特異的に結合する知覚神経複合体の毛包へのターゲティングとその複雑な末端構造の形成に、バルジ上部の毛包幹細胞及び、毛包と神経複合体とのインターフェースとして機能する基底膜がどのように関わっているのかを明らかにする。今年度は、まず、知覚神経複合体と共局在する基底膜蛋白質EGFL6の局在を、電子顕微鏡解析により詳細に解析した。その結果、知覚神経複合体の周囲に電子密度の高いアモルファスな新規細胞外マトリックス構造を同定し、そのマトリックス構造にEGFL6が選択的に存在することが免疫電顕での解析で明らかとなった。次に、EGFL6ノックアウトマウスにおける、知覚神経終末の構造と機能の評価を行った。EGFL6ノックアウトマウスでは知覚神経複合体を形成する終末シュワン細胞の形態に異常が認められた。加えて、skin-nerve preparationを用い、毛包周囲のAβ低閾値機械刺激受容神経 (Law Threshold Mechanosensory Receptor Neuron: LTMR) の活動電位を測定したところ、EGFL6を欠失した皮膚では皮膚刺激に対するAβLTMRの応答が顕著に低下していた。これらの結果は、EGFL6が毛包を介した知覚の伝達に関与していることを強く示唆している。
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