研究領域 | 血管ー神経ワイヤリングにおける相互依存性の成立機構 |
研究課題/領域番号 |
25122721
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
出口 友則 独立行政法人産業技術総合研究所, 健康工学研究部門, 研究グループ付 (30415715)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | リンパ管 / 発生 / Prox1 / 魚類 / メダカ / ライブイメージング / ゲノム編集 / TALEN |
研究概要 |
リンパ管は体液の恒常性の維持・脂肪の吸収・免疫に必須であり、病理面では癌や浮腫あるいは様々な炎症性疾患で重要な役割を果たす事が知られる。このことからは、リンパ管形成に関する理解は、リンパ管が関与する様々な生命現象の真実に迫るとともに、新たな治療戦略の開発につながることを意味する。しかし、リンパ管内皮細胞が増殖・進展しながら個体内の隅々まで、そのネットワーク構造を形成していく機構については不明なことが多い。血管の形成過程においては、血管内皮細胞は体節由来や神経由来の遺伝子によりガイダンスを受けており、リンパ管でも同様の機構の存在が考えられた。しかし、応募者のこれまでの研究により、神経より先にリンパ管形成が進む可能性を示唆するデータが得られてきたので、本研究ではメダカを用いたin vivoイメージングとリンパ管の走行操作、リンパ管成長因子の発現操作により、リンパ管が末梢神経の走行に与える影響とその機構を明らかにする。 当初、応募者が開発したリンパ管・神経2重可視化メダカに対し、リンパ管成長因子のノックダウン実験を行いリンパ管の伸長だけを阻害した際に、神経束の走行にどのような影響が出るか明らかにする予定であった。しかし、遺伝子ノックダウン実験は非特異的な表現型の異常が出やすいといった問題があり、魚類においてはTALENによるゲノム編集技術が確立してきたので予定を変更し、TALENにより哺乳類でリンパ管形成マスター遺伝子といわれるProx1のメダカホモログProx1a遺伝子のノックアウト実験を行った。 ところが、Prox1a遺伝子がノックアウトされたホモ個体が得られたので、リンパ管発生過程を観察したが形態的には何ら異常が観察されなかった。現在、Prox1a産物の異常の確認と、異なった箇所のゲノム編集に取り組んでいる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
哺乳類でリンパ管形成に必須であると言われるProx1のメダカホモログ遺伝子を破壊したが、リンパ管形成に異常が見つからなかった。魚類でもノックダウン実験によりProx1がリンパ管形成に重要な働きをしていると言われているが、ノックダウン実験は非特異的な表現型を示すことが多くあるので、本研究成果により魚類のリンパ管形成には実はProx1遺伝子が必要でない可能性が示唆された。これは魚類と哺乳類の種差を考慮するのに重要な知見であるが、ゲノム編集でノックアウトされた遺伝子が産物レベルでは機能欠損されたものとなっていない可能性や、魚類で重複している遺伝子による補完が行われている可能性もあるので、慎重に検証が必要である。上記のように当初想定していた結果とは異なったが、その成果は有意義であり、リンパ管形成機構の解明という大目的に対しては概ね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
ゲノム編集でノックアウトされたProx1a遺伝子が産物レベルでは機能欠損されたものとなっていない可能性を考えホモノックアウト個体からcDNAを調整し産物の確認を行う。産物レベルの機能欠損が起こっていなかった場合を考え、同遺伝子の異なった箇所でのゲノム編集を行う。 さらに、魚類で重複している遺伝子Prox1bによる機能補完が行われている可能性を考え、Prox1bのゲノム編集を行いノックアウト個体を作製しリンパ管形成過程を観察する。さらに、Prox1a,Prox1bノックアウト個体を掛け合わすことでダブルノックアウト個体を作製しリンパ管形成過程を観察する。 また、当初の目的であるリンパ管形成における神経形成への影響を確認するため、他に魚類でリンパ管形成に異常を示すと言われている遺伝子のノックアウト実験を行う。
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